症例1:肺癌による気道狭窄

患者:70歳代の主婦

主訴:労作時の息切れ

逆流性食道炎、高血圧、高脂血症があり、近医で診てもらっていたのですが、最近、階段を上る時に息切れがある、と受診されました。咳と痰はたまにしか出ないそうです。喘息もありましたが、6年くらい前からほとんど症状がなくなり、治療は受けていないそうです。

聴診部位

肺音リスト

  1. 治療開始2ヵ月後

    横軸は時間で約10秒間、上の段に右前胸部、その下の段に左前胸部の音を示します。最下段の黄色の曲線が換気曲線で、上向きが吸気、下向きが呼気です。図右端の白地に赤のギザギザの線は、サウンド・スペクトログラムの左端にある細い赤の縦線の時点での各周波数の音の強さを示します。

    左前胸部では、170~200Hzが基礎周波数のウィーズ(図の→)が少し上下に波のある明るい数本の線で示されています。同じ波形で2倍音、3倍音(ハーモニクス)も認めます。よく見ると右(上段)にも周波数も形状もまったく同じ波形が見られます。左上葉の狭窄で発生した低調ウィーズが右前胸部にも伝わったことが分かります。

    よくみるとウィーズは、左前胸部では吸気のほぼ全般と、呼気の後半2/3に認めます。かなり持続の長いウィーズです。典型的な喘息のウィーズと比べると、持続が長く、周波数が比較的フラットです。気道の固定性狭窄がある場合の所見です。倍音は600Hz辺りまで記録されていますが、聴いた感じは低調な基音が強く感じられ、低調ウィーズと認識できます。中枢気道狭窄の典型的な連続性ラ音(低調ウィーズ=ロンカイ)と認識できます。

  2. 治療後

    さらに、治療が進んで腫瘍が縮小した時の肺音です。ウィーズは消失しています。上段の右前胸部と比べると、左前胸部の音は呼気、吸気ともに強く、気管支音化しています。これも軽度狭窄の所見です。