生命倫理と医療倫理
第5版

  • 未刊
定価 3,300円(本体 3,000円+税10%)
編集伏木信次
京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター特別顧問
樫則章
大阪歯科大学歯学部客員教授
霜田求
京都女子大学現代社会学部教授
A5判・307頁
ISBN978-4-7653-2084-9
2026年03月 刊行
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★2026年2月下旬 発売予定!★

刊行から21年、多くの医療系大学で教科書として支持され続けるロングセラー、待望の第5版

内容紹介

初版刊行以来、ヒトゲノム解読からiPS細胞、そしてゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)の登場と、医学・生命科学は劇的な進歩を遂げました。「個別化医療」や「再生医学」が現実のものとなる一方で、私たちが現場で直面する倫理的課題はより複雑化し、その重みを増しています。

本書は、初版発行から20年以上、多くの教育機関で選ばれ続けています。文部科学省の医学・歯学教育のモデル・コア・カリキュラムに準拠しつつ、こうした最新の科学的知見と、それを取り巻く法制度・社会情勢の変化を反映しました。単なる知識の暗記ではなく、正解のない課題にどう向き合い、どう判断すべきか、という「倫理的思考」や「主体的な判断力」を養います。

未来の医療を担う皆さんが、技術の進歩に翻弄されることなく、自らの頭で考え、進むべき道を切り拓くための「羅針盤」となる一冊です。

序文

『生命倫理と医療倫理』は2004年8月の刊行以来、21年の歳月を重ね、このたび改訂第5版を世に送る運びとなった。初版刊行から今日に至るまでの歩みを振り返ると、医学・生命科学を取り巻く環境は、まさに激動と革新の連続であったと言ってよい。

本書誕生の1年余り前、2003年4月にはヒトゲノムプロジェクトの解読完了が宣言され、完成版が公開された。この歴史的成果は、ヒトの疾病制圧を目指す「テイラーメイド医療」(近年では「精密医療」や「個別化医療」と呼ばれることが多い)の幕開けを告げる象徴的な出来事であった。

この間、がんや神経難病など、長らく治療の糸口が見えなかった疾患に対して、診断・治療の両面で目を瞠る進歩がもたらされた。分子標的薬の開発は、がんゲノム解析に基づく治療戦略の有効性を明確に示し、個別化医療のコンセプトを具体的な臨床成果へと結びつけた。また、iPS細胞やES細胞など幹細胞を活用した再生医学研究は、これまで夢物語と考えられていた臓器再生や組織修復に現実味を与え、人類の長年の願いである老化の克服にさえ寄与し得る可能性を秘めている。さらに、CRISPR-Cas9に代表されるゲノム編集技術の登場は、遺伝子治療の効率化と精密化を飛躍的に進め、生命科学の未来像を一変させつつある。

初版序文において編者は、遺伝子診断や遺伝子治療などについて、「個人のレベルのみならず、人類全体として“適切かつ思慮深い”対応が求められる課題が山積している」と述べた。20年を経た現在、この指摘はむしろ重みを増している。科学技術の進歩は、私たちに新たな恩恵をもたらす一方で、生命倫理・医療倫理の観点から慎重な判断を迫る多様かつ複雑な課題を次々と提示している。倫理的思考の重要性はかつてなく高まっていると言えよう。

本書は、医学・歯学教育の改革を目指して文部科学省が2001年に示したモデル・コア・カリキュラム「医の倫理」の内容を踏まえつつ、医学・医療倫理に関する新たな視点を取り入れたテキストとして企画された。執筆者の皆様の多大なご尽力とご支援により、医学・歯学のみならず、多くの医療系大学において生命倫理・医療倫理の教科書として採用され、今日まで広く活用されてきたことは、編者として大きな励みである。

近年、医学・生命科学の進歩と、それを取り巻く法律・社会制度の変革はますます加速している。これらの変化を第5版に的確に反映させることは、本書の使命であると同時に、未来の医療を担う読者の皆様に対する責務でもある。また、参考資料等の充実を図ることで、より専門的な深みを求める読者の期待にも応えられるよう努めた。

本書が、読者を生命倫理と医療倫理の広大な世界へと誘い、若い方々が多様な倫理的課題に主体的に向き合うことを通じて、未来の医療をより良いものへと導く契機となれば、編者としてこれに勝る喜びはない。

末筆ながら、ご多忙の中、改訂にご尽力賜った執筆者の皆様、そして細やかなご配慮を終始賜った金芳堂編集部の一堂芳恵氏に、この場を借りて深く感謝申し上げる。

2026年2月
編者

目次

Ⅰ部 医療における原理・原則
第1章 生命倫理の今日的課題
1.はじめに―医学・生命科学の発展と生命倫理―
2.社会規範としての生命倫理―生命倫理の意義
3.生命倫理規範の形態
4.生命倫理の基本原則
5.倫理問題の具体的現況―今日の先端医学が投げかける倫理問題
6.むすびに

第2章 健康、疾患、病気
1.はじめに
2.健康と疾患の概念や定義に関わる問題
3.病気

第3章 医療者‐患者関係
1.臨床現場でみられる医療者‐患者関係
2.インフォームド・コンセント
3.守秘義務について
4.患者と医療者の意見が対立する場合
5.インフォームド・コンセントとコミュニケーション

第4章 臨床倫理
1.臨床倫理とは
2.医療機関における臨床倫理支援体制
3.臨床倫理の事例検討法
4.対話の文化を求めて

第5章 看護とケア
1.はじめに
2.生命倫理学におけるケアと、ケア論の発展
3.看護のケア(nursing care)とは何か
4.おわりに:看護におけるケアの課題

Ⅱ部 生命の始まりをめぐる倫理問題
第6章 着床前検査と胚選別
1.着床前検査とは
2.着床前検査の倫理的問題
3.諸外国における着床前検査
4.日本における着床前検査の歴史と導入・普及をめぐる論争
5.おわりに

第7章 人工妊娠中絶と出生前検査
1.問題の所在:「選択の尊重」と「差別払拭」の間で
2.障害者運動と出生前検査
3.女性の人権と出生前検査
4.法による優生思想の裏づけ:優生保護法
5.母体保護法、残された課題
6.もう一つの課題、堕胎罪
7.出生前検査:知る権利、知らせる義務
8.報告書が促した2つの方針転換

第8章 生殖補助医療技術
1.はじめに
2.生殖補助医療技術(ART)の歴史と分類
3.生殖補助医療技術の問題点
4.おわりに

第9章 新生児医療・小児医療における生命倫理
1.はじめに
2.NICUに入院する重症新生児
3.治療方針決定のためのガイドライン―「こどもの最善の利益」を考える
4.おわりに

Ⅲ部 生命の終わりをめぐる倫理問題
第10章 高齢者の医療と福祉
1.はじめに
2.高齢者の医療と福祉をめぐる現状と課題
3.認知症高齢者の尊厳の保持をめぐる課題

第11章 エンドオブライフ・ケア
1.はじめに
2.ホスピス
3.緩和ケア
4.生命維持治療の差し控えと終了の問題
5.日本におけるガイドライン策定
6.意思決定プロセス:≪情報共有=合意≫モデル
7.本人の意思の尊重―人生の物語りを核として
8.おわりに

第12章 臓器移植
1.はじめに
2.移植の類型と特徴
3.脳死の定義
4.脳死は人の死か
5.ドナーの同意を確認する方法
6.子どもの臓器提供:家族の希望
7.臓器移植法の改正
8.生体移植の倫理とルール
9.おわりに

第13章 安楽死と尊厳死
1.はじめに
2.「安楽死」論の歴史的変遷
3.「安楽死」の展開
4.安楽死・尊厳死が含意するもの
5.おわりに

第14章 救急医療・災害医療
1.はじめに
2.救急医療における医療倫理の難しさ
3.救急医療におけるインフォームド・コンセントと患者の意思決定
4.心肺蘇生
5.救急医療での医師の応招義務
6.医療機関の外で行う救急医療
7.救急・災害医療におけるトリアージ
8.新型コロナウイルス感染症におけるトリアージ
9.おわりに

Ⅳ部 先端医療技術
第15章 遺伝子・ゲノム医療
1.はじめに
2.遺伝子・ゲノム医療とは
3.遺伝の基礎知識
4.遺伝子医療の実際
5.遺伝子医療からゲノム医療へ
6.ゲノム医療におけるゲノム情報の保護と利活用
7.遺伝子・ゲノム医療の新技術とその課題
8.おわりに

第16章 再生医療
1.はじめに
2.再生医療の概要
3.再生医療の倫理問題の論点整理
4.再生医療をめぐる倫理的問いとその考察
5.再生医療ビジネス
6.おわりに

第17章 脳・ロボット・AI
1.医療におけるロボットとAI
2.ロボット・AIと脳神経科学
3.脳神経倫理とAI倫理の交差
4.今から少し先の未来:マインド・リーディングとニューロプライバシー
5.おわりに

Ⅴ部 医療と社会
第18章 医学研究
1.はじめに
2.動物を対象とした医学研究
3.人を対象とする医学研究
4.科学者の行動規範と不正行為、利益相反

第19章 医療情報をめぐる倫理と法
1.はじめに
2.医療情報の守秘
3.個人情報保護

第20章 公衆衛生の倫理
1.公衆衛生とは
2.公衆衛生の歴史
3.公衆衛生―責任の主体と議論の枠組み
4.感染症対策とヘルス・プロモーションの倫理的課題について
5.まとめ

第21章 医療機関における医療安全への取り組みの現状
1.はじめに
2.日本における医療安全への取り組み
3.医療機関における医療安全への取り組み
4.おわりに

第22章 医療人類学
1.生命倫理学と医療人類学の関係
2.11の用語で理解する医療人類学
3.グローバル/ローカル指向と現代的/伝統的課題の四象限で、人々の病いを理解する

第23章 医療とジェンダー
1.はじめに
2.ジェンダー概念の誕生:マネーやストーラーのジェンダー概念
3.ジェンダー概念の展開:〈男性/女性〉間の権力関係を分析するジェンダー概念
4.ジェンダー概念の現在:知を再構築するジェンダー概念
5.結びに代えて―ジェンダー概念のこれから

執筆者一覧

■編集
伏木信次  京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター特別顧問(病理学)
樫則章   大阪歯科大学歯学部客員教授(倫理学)
霜田求   京都女子大学現代社会学部教授(生命倫理学)

■執筆者一覧(五十音順)
会田薫子  東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター・上廣講座特任教授(臨床倫理学・臨床死生学)
有馬斉   横浜市立大学国際教養学部教授(倫理学)
安炳文   京都第一赤十字病院救急科救急ER部長(救急医学)
池田光穂  大阪大学名誉教授(文化人類学)
位田隆一  京都大学・滋賀大学名誉教授/京都女子大学客員教授(国際生命倫理・国際法)
大北全俊  滋賀医科大学教授(生命倫理学)
大谷いづみ 立命館大学衣笠総合研究機構教授(生命倫理学)
岡本慎平  広島大学大学院人間社会科学研究科助教(倫理学)
樫則章   大阪歯科大学歯学部客員教授(倫理学)
河瀬雅紀  京都ノートルダム女子大学名誉教授/醍醐病院診療部顧問(精神医学)
齋藤有紀子 北里大学医学部附属医学教育研究開発センター医学原論研究部門准教授(法哲学・生命倫理学)
霜田求   京都女子大学現代社会学部教授(生命倫理学)
滝智彦   杏林大学保健学部臨床検査技術学科/医学部付属病院遺伝子診療センター教授(臨床遺伝学・血液学・腫瘍学)
田代志門  東北大学大学院文学研究科教授(社会学・生命倫理学)
遠矢和希  東京大学医科学研究所准教授(生命倫理学)
利光惠子  立命館大学生存学研究所客員研究員(生命倫理学)
中筋美子  兵庫県立大学看護学部講師(老人看護学)
永田まなみ 前熊本大学大学院生命科学研究部保健学系講師(基礎看護学)
任和子   京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授(臨床看護学)
根村直美  日本大学経済学部教授(倫理学)
長谷川龍志 京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学学内講師(新生児学)
伏木信次  京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター特別顧問(病理学)
丸山英二  神戸大学名誉教授(医事法)

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