生命倫理と医療倫理
第4版

    定価 2,970円(本体 2,700円+税10%)
    編集伏木信次
    京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター総長
    樫則章
    大阪歯科大学歯学部教授
    霜田求
    京都女子大学現代社会学部教授
    A5判・288頁
    ISBN978-4-7653-1816-7
    2020年03月 刊行
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    今日の倫理的課題に応える、コンパクトながらも充実したテキスト

    内容紹介

    前回の改訂から5年余りの歳月が流れ、医学・医療を取り巻く状況は、日本国内はもちろん国際的にも大きく変わりつつある。とりわけ国内に目を向けると、高齢者人口の増加による超高齢社会を迎えるとともに、一方で出生率の低下は少子化から稀子化社会へと歩みを進めている。またゲノム編集技術やゲノム医療の進展、さらに医療へのAIの導入はさまざまな倫理的課題を提供している。

    医学・生命科学の急速で驚異的な進歩は同時に、社会の「生と死」に対する価値観の揺らぎを生み、私たちの前に大きな課題として提示され、倫理的課題はますます多様化・複雑化している。そのような状況を踏まえ、この度の改訂では、新たな執筆陣を迎え、これまで取り扱ってきたテーマの見直しや内容のアップデートを行った。また「臨床倫理」「高齢者の医療と福祉」「脳・ロボット・AI 脳神経倫理」などの章も新設。さまざまな視点から生命倫理・医療倫理を考え、学ぼうとする幅広い読者のために、さらなる内容の充実を図った。

    序文

    本書の改訂第3版が刊行されました2014年3月から5年余の歳月が流れる間に、医学・医療を取り巻く状況は日本国内のみならず国際的にも大きく変貌を遂げつつあります。とりわけ日本は、高齢者人口の増加による超高齢社会を迎えるとともに、一方で出生率の低下は少子化から稀子化社会への道にわが国を導いています。またゲノム編集技術やゲノム医療の進展、さらに医療へのAIの導入はさまざまな倫理的課題を提供しています。

    そのような状況に対応すべく、本書では改訂にあたり、これまで取り扱ってきたテーマの組換えや章の新設を行いました。Ⅱ部、Ⅲ部に関しましては、部の呼称も一部改訂いたしました。新設した章は、臨床倫理(第4章)、高齢者の医療と福祉(第10章)、脳・ロボット・AI 脳神経倫理(第17章)であり、生命倫理の今日的課題(第1章)、新生児医療・小児医療における生命倫理(第9章)、遺伝子・ゲノム医療(第15章)では新たな執筆者にご担当いただきました。今回の改訂に合わせ、以前からの執筆陣には内容のアップデイトをお願いいたしました。

    第1章のむすびで位田隆一先生が論じておられますように、「医学・生命科学の急速で驚異的な進歩を前にした社会の生と死に対する価値観の揺らぎ」こそが、私たちの現前に提示されている大きな課題であり、それ故、立ち現れる倫理的課題は多様化・複雑化しています。今回の改訂により、そのような現代的ニーズに応えうる、コンパクトながらも充実した内容のテキストになったものと編者一同、自負いたしております。これひとえに、研究・教育・診療等の多忙な日々を縫って、改訂にご尽力いただきました執筆者の皆様のご協力の賜物と深く感謝申し上げる次第です。また、旧版でお世話になりました三島民子氏を引き継がれました金芳堂編集部 一堂芳恵氏の並々ならぬご尽力に心から謝意を表します。あわせて本書の初版以来、執筆陣として永らくご協力賜りました加茂直樹先生をはじめとする多くの皆様にこの場を借りて深謝申し上げます。

    「人間の尊厳と人権の尊重」に軸足を置いた生命倫理を社会とともに築きあげるために、本書が生命倫理・医療倫理を学ぼうとされる幅広い読者の皆様に大いに活用されますよう願っております。

    目次

    Ⅰ部 医療における原理・原則

    第1章 生命倫理の今日的課題
    1.はじめに―医学・生命科学の発展と生命倫理―
    2.社会規範としての生命倫理―なぜ今、生命倫理か
    3.生命倫理規範の形態
    4.生命倫理の基本原則
    5.倫理問題の具体的現況―今日の先端医学が投げかける倫理問題
    6.むすびに

    第2章 健康、疾患、病気
    1.はじめに
    2.健康と疾患の概念や定義に関わる問題
    3.病気

    第3章 医療者‐患者関係
    1.臨床現場でみられる医療者‐患者関係
    2.インフォームド・コンセント
    3.守秘義務について
    4.患者と医療者の意見が対立する場合
    5.インフォームド・コンセントとコミュニケーション

    第4章 臨床倫理
    1.臨床倫理とは
    2.医療機関における臨床倫理支援体制
    3.臨床倫理の事例検討法
    4.対話の文化を求めて

    第5章 看護とケア
    1.はじめに
    2.生命倫理学におけるケアとケア倫理
    3.看護のケア(nursing care)とは何か
    4.おわりに:看護におけるケアの課題

    Ⅱ部 生命の始まりをめぐる倫理問題

    第6章 着床前診断と胚選別 
    1.はじめに
    2.海外における着床前診断
    3.日本における着床前診断
    4.着床前診断による非医学的な理由による性別の選択

    第7章 人工妊娠中絶と出生前診断
    1.2013年、二つのできごと
    2.障害者運動と出生前診断
    3.女性の人権と出生前検査
    4.法による優性思想の裏づけ:優生保護法
    5.母体保護法、残された課題
    6.もう一つの課題、堕胎罪
    7.出生前検査:知る権利、知らせる義務

    第8章 生殖補助医療技術 
    1.はじめに
    2.生殖補助医療技術(ART)の歴史と分類
    3.生殖補助医療技術の問題点
    4.おわりに

    第9章 新生児医療・小児医療における生命倫理
    1.はじめに
    2.NICUに入院する重症新生児
    3.治療方針決定のためのガイドライン―「こどもの最善の利益」を考える
    4.おわりに

    Ⅲ部 生命の終わりをめぐる倫理問題

    第10章 高齢者の医療と福祉
    1.はじめに
    2.高齢者の医療、福祉、介護をめぐる現状と課題
    3.認知症をめぐる課題

    第11章 エンドオブライフ・ケア
    1.はじめに
    2.ホスピス
    3.緩和ケア
    4.生命維持治療の差し控えと終了の問題
    5.日本におけるガイドライン策定
    6.意思決定プロセス:≪情報共有=合意≫モデル
    7.本人の意思の尊重―人生の物語りを核として
    8.おわりに

    第12章 臓器移植
    1.はじめに
    2.移植の類型と特徴
    3.脳死の定義
    4.脳死は人の死か
    5.ドナーの同意を確認する方法
    6.子どもの臓器提供:家族の希望
    7.臓器移植法の改正
    8.生体移植の倫理とルール
    9.おわりに

    第13章 安楽死と尊厳死
    1.はじめに
    2.「安楽死」論の歴史的変遷
    3.「安楽死」の展開
    4.安楽死・尊厳死が含意するもの
    5.おわりに

    第14章 救急医療・災害医療
    1.はじめに
    2.救急医療における医療倫理の難しさ
    3.救急医療におけるインフォームド・コンセントと患者の意思決定
    4.心肺蘇生
    5.救急医療での医師の応招義務
    6.医療機関の外で行う救急医療
    7.救急・災害医療におけるトリアージ
    8.おわりに

    Ⅳ部 先端医療技術

    第15章 遺伝子・ゲノム医療
    1.はじめに
    2.遺伝子・ゲノム医療とは
    3.遺伝の基礎知識
    4.遺伝子医療の実際
    5.遺伝子医療からゲノム医療へ
    6.遺伝子・ゲノム医療の新技術とその課題―ゲノム編集
    7.おわりに

    第16章 再生医療
    1.はじめに
    2.再生医療の概要
    3.再生医療の倫理問題の論点整理
    4.再生医療をめぐる倫理的問いとその考察
    5.再生医療ビジネス
    6.おわりに

    第17章 脳・ロボット・AI 脳神経倫理
    1.医療におけるロボットとAI
    2.ロボット・AIと脳神経科学
    3.BMI/BCI研究の倫理
    4.今から少し先の未来:マインド・リーディングとプライバシー
    5.おわりに

    Ⅴ部 医療と社会

    第18章 医学研究
    1.はじめに
    2.動物を対象とした医学研究
    3.人を対象とした医学研究
    4.科学者の行動規範と不正行為、利益相反

    第19章 医療情報 ―個人情報、医療(診療)情報、遺伝情報の保護と共有―
    1.医療情報の特性と範囲
    2.これまで
    3.個人情報保護法
    4.ゲノム情報について
    5.まとめ

    第20章 公衆衛生の倫理
    1.公衆衛生とは
    2.公衆衛生の歴史
    3.公衆衛生―責任の主体と議論の枠組み
    4.感染症対策とヘルス・プロモーションの倫理的課題について
    5.まとめ

    第21章 医療機関における医療安全への取り組みの現状
    1.はじめに
    2.日本における医療安全への取り組み
    3.医療機関における医療安全への取り組み
    4.おわりに

    第22章 医療人類学
    1.生命倫理学と医療人類学の関係
    2.11の用語で理解する医療人類学
    3.グローバル/ローカル指向と現代的/伝統的課題の四象限で、人々の病いを理解する

    第23章 医療とジェンダー
    1.はじめに
    2.ジェンダー概念の誕生:マネーやストーラーのジェンダー概念
    3.ジェンダー概念の展開:〈男性/女性〉間の権力関係を分析するジェンダー概念
    4.ジェンダー概念の現在:知を再構築するジェンダー概念

    執筆者一覧

    ■編集
    伏木信次  京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター総長(病理学)
    樫則章   大阪歯科大学歯学部教授(倫理学)
    霜田求   京都女子大学現代社会学部教授(生命倫理学)

    ■執筆者一覧(五十音順)
    会田薫子  東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座特任教授(臨床倫理学・臨床死生学)
    有馬斉   横浜市立大学国際総合科学部准教授(倫理学)
    安炳文   京都第一赤十字病院第二救急科部長(救急医学)
    池田光穂  大阪大学COデザインセンター教授(文化人類学)
    位田隆一  滋賀大学学長(国際生命倫理・国際法)
    稲葉一人  中京大学法務総合教育研究機構教授(民事訴訟法・医療倫理学)
    大北全俊  東北大学大学院医学系研究科講師(医療倫理学)
    大谷いづみ 立命館大学産業社会学部教授(生命倫理学)
    岡本慎平  広島大学大学院文学研究科助教(倫理学)
    樫則章   大阪歯科大学歯学部教授(倫理学)
    河瀬雅紀  京都ノートルダム女子大学現代人間学部心理学科教授(精神医学)
    北宅弘太郎 リプロダクションクリニック大阪院長
    齋藤有紀子 北里大学医学部附属医学教育研究開発センター医学原論研究部門准教授(法哲学・生命倫理学)
    霜田求   京都女子大学現代社会学部教授(生命倫理学)
    滝智彦   杏林大学保健学部教授(臨床遺伝学・臨床血液学)
    田代志門  東北大学大学院文学研究科社会学専攻分野准教授(社会学・生命倫理学)
    遠矢和希  国立循環器病研究センター東病院倫理審査事務室主任研究員(生命倫理学)
    中筋美子  兵庫県立大学看護学部講師(老人看護学)
    永田まなみ 熊本大学生命科学研究部保健学系講師(基礎看護学)
    任和子   京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授(臨床看護学)
    根村直美  日本大学経済学部教授(倫理学)
    長谷川龍志 京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学助教(新生児学)
    伏木信次  京都府立医科大学研究質管理センター長/特任教授・京都中部総合医療センター総長(病理学)

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