ICU医の素 By system×重症患者管理レシピ

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  • 好評書
定価 5,280円(本体 4,800円+税10%)
太田啓介
静岡県立総合病院集中治療センター集中治療科/急変対応科
B6判変型・310頁
ISBN978-4-7653-1986-7
2024年03月 刊行
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コモンな重症患者の評価・管理レシピがひと目でわかる! 読めばうまくなる、ICU医の素!

内容紹介

重症患者の疾患・病態に対しては「By system」という同一フォーマットを用いた系統的・横断的な評価・管理が重要なのはよく知られています。

本書はBy systemを切り口に、疾患を問わない共通知識である基礎編、ICU症例の8割+αを収録した実践編の2部構成でICU管理の土台/備忘録としてコンパクトに持ち運べて知りたい内容をすぐに見返すことができる書籍です。

上記の通り、本書は疾患の細かい部分までを解説する書籍ではなく、経験的な部分や著者の勤務する施設(静岡県立総合病院)でのプラクティスも含めた、集中治療医の思考過程の“もと”となるような内容で構成されており、読み込めばきっと重症患者管理がうまくなります。

序文

どの本を読んでも、どこの話を聞いても、「ICUはBy systemが常識じゃい!」ということで、カルテ記載もカンファレンスもBy systemに沿って行います。しかし、世の中のICU関連書籍において、総論~各論まで切り口がBy systemで統一されたものが存在しないということに、不便を感じていました。そこでこの“By system”を統一された切り口とすることをベースとして、さらに日頃からローテーターの先生に繰り返し伝えている、アセスメントとプランを立てる上で土台となるレクチャーをプラスした書籍が存在すれば、自分は欲しいと思いました。そしてそれを現実のものとしたのが本書になります。

本書は疾患を問わない共通知識である基礎編、疾患別の実践編の2部構成とし、全てBy systemで、まずはone-pager的に一目で概要をつかめるような作りとしています。

現在AIの発展により、わからないことはスマートフォンで調べればすぐに答えが出てくる時代になりつつあり、今後はいわゆる網羅的な厚いマニュアル本はあまり流行らなくなると予想されます。そういった意味でも、疾患の細かい部分は成書に譲り、AIだけでは及ばない経験的な部分も含めた、本書のような集中治療医の思考過程の“もと”となるような書籍の存在価値はあるように感じています。本文中に筆者の勤務する施設(静岡県立総合病院、以下当院)でのプラクティスも所々で紹介しているため、ご参考いただければ幸いです。

私は集中治療医=重症総合診療医と考えています。昨今、循環器集中治療や神経集中治療など、集中治療領域内も枝分かれの分野が出てきています。都市部のような、医療機関も人材も豊富な場所ではそのような運用も可能なのだと思いますが、地方ではそうもいきません。常時緊急/重症対応のできる施設も限られている上に、集中治療医が常駐している施設自体が多くありません。そうはいっても、あらゆる急性期重症疾患に対し、高水準で対応できる能力が必要であると考えています。その使命感を胸に、はじめから終わりまで一人の集中治療医が書き切り、疾患に関しては稀なものは思い切って割愛し、ICU症例の8割+αをカバーするイメージで、10数例をピックアップしました。ICU管理の土台/備忘録としてポケットサイズのコンパクト感にもこだわりました。

そんな魂の一冊になったわけですが、この序文の締めとして、当院ICUの看護師長や専門看護師と共に作った、集中治療医のコアポリシーを紹介します。このポリシーを軸に、本書を通して、皆さんの脳内にICU医が見ている景色が広がることを、切に願っております。


集中治療医の仕事に対する10箇条

① 患者の助けにならない集中治療医にならない。
利害を含めて治療適応を正しく見定め、とにかく患者ファーストを心掛ける。

集中治療の目標は、患者が受け入れられる生活の質に戻すこと。患者の目標や価値観に合わないケアをしない。高リスクで救命困難と判断したら苦痛緩和と家族ケアに全力投球。

② 主科の助けにならない集中治療医にならない。
特にICUに慣れていない科/医師なら、積極的にICU/集中治療科で管理/そこでの責任を請け負う。

主科には原病加療に集中してもらう。その分しっかり情報共有し、思考をカルテ記載する。

③ 医療者間conflictは患者に不利益。協調も大事。
患者を悪くしたい医療者はいない、各々に正義はある。許容/譲れる範囲であれば協調の姿勢も必要。ただ明らかに患者さんにとって不利益であれば、根拠を示すとともにICU/集中治療科の提案を受け容れてもらう努力を。

④ 介入はEBM+生理学的に妥当であること。
Evidence-Based Medicine(EBM)とは、「エビデンスとして正しいことを行う」のではなく、「エビデンスや患者の意向、周囲の環境、医療者の経験に基づいて、患者にとってベストな選択を行うこと」。我々の介入はそれに加えて生理学的にも妥当であること。

⑤ その場しのぎの対症療法で終わらず原因究明を。
患者に起きている事象/検査異常の全てにアセスメント&プランをたて、必ず原因事象の上流まで遡り対応し、それらを言語化する。集中治療は“治療”とは言うものの、やっていることの多くは大袈裟な対処療法になりがちで、ややもすると目の前の異常な状態をもぐら叩き的に補正して満足する、という事態に陥りがちである。

カルテも事実の羅列で終わらない。カンファも事実の報告会で終わらない。皆が知りたいのは目の前の患者に起こっていることの原因とその対応、それに基づく今日1日の予定である。

⑥ 経過観察の4Pを表現する。
謎の現象は起こり得ること。なぜそうなっているのか、むしろわからないことの方が多いかもしれない。その際に、暫定診断/推論とともに、わからないなりにどうフォローするかが大切。

患者が良くなればplan doで良いだろうが、悪くなるならどうするか、4Pを軸にプランを考え、カルテに示すのが大事。

※4P=Parameter/Period/Place/Plan
・Parameter:どの項目/指標で経過をみるか
・Period:いつまで/どのくらいの期間経過をみるか
・Place:どの場所で/どのようなモニタリング下で経過をみるか(例:ICU?HCU?一般病棟?)
・Plan:どうなったらどう動くか、悪化したときのプランを考えておく(例:Parameterが△△になったら〇〇する、3日経過みて△△になったら〇〇する)

⑦ 集中治療医は重症総合診療医である。
内科急性期的知識を実装すべし。良書多数。

手技や知識でできない/わからないこと自体は悪ではない。限界を知る。困ったら助けを呼ぶ/相談する/調べる。それができずに患者に害が出たら、それが悪。

⑧ 根拠のない“まぁいいか”に足元をすくわれる。
我々は常に「最善を願い、最悪に備える」。

懸念があればオーバートリアージで検査/処置を行い、納得できる状態にする。

医学的適応がある中で、やるかやらないか悩んだら、やる方を選ぶ。悩むくらいのやる理由があり、患者によほどの高侵襲/リスクを伴うものでなければ、恐らくやってはいけない理由はない。特に、あとで元に戻れる選択肢であれば決定は素早く行い、間違っていればすぐに引き返すよう心掛ける。逆に、あとで元に戻すことが難しい選択肢であれば順を踏んで注意深く検討して決定を行う。

⑨ チームプレーを尊重、皆が理解できるプランを。
医師がイニシアチブをとる場面が多いことは確かだが、パターナリズムにならぬよう気を付ける。多職種のチームメンバーが理解できない方針を強行しない。コスト、人手、時間などのリソースも考える。

多様性でカバーして高い価値を生み出せるチームの方が良い結果が出せることは証明されている事実。

⑩ 冗談も言えない組織は息が詰まる、楽しく行こう。
堅苦しいチーム/カンファは発言しにくいし居心地が悪い。明るく楽しく、空気感/雰囲気作りに努める。皆のいわゆる“心理的安全性”を確保できるよう意識する。

プライベートの充実は仕事の充実にも繫がる。仕事以外の人生も大事にする。

<謝辞>
“Less is More 考える集中治療”に続き、今回もご担当藤森様、山下様はじめ、金芳堂の皆様には本書の企画から出版まで多大なるご尽力いただきましたことを、この場を借りて厚く御礼申し上げます。また日々の業務/生活において大きな支えとなっている、ICUに関わる全てのスタッフと、妻をはじめとする家族にも、感謝を伝えます。いつもありがとう。

目次

はじめに

基礎編 ICU× By system:重症管理の基本レシピ
・By system One-page 疾患に関わらず基本共通な管理
・鎮静鎮痛/意識
・呼吸/レスピ
・循環
・腎臓
・In/out
・電解質
・肝胆膵
・血液/凝固
・感染
・栄養/消化管
・血糖/内分泌
・予防(DVT、潰瘍、リハ)

実践編 ICU × By system:疾患別アレンジレシピ
1.動脈瘤性くも膜下出血(aneurysmal subarachnoid hemorrhage:aSAH)
2.脳出血
3.外傷性脳損傷
4.てんかん重積状態
5.心停止蘇生後
6.急性呼吸不全/ARDS(acute respiratory distress syndrome、急性呼吸窮迫症候群)
7.心臓血管外科術後
8.心原性ショック(cardiogenic shock:CS)
9.敗血症性ショック(septic shock)
10.急性重症膵炎
11.急性肝不全(Acute Liver Failure:ALF)/慢性肝不全急性増悪(Acute-on-Chronic Liver Failure:ACLF)
12.脳死ドナー管理

おかわりレシピ
気管切開のタイミング
急性期入院患者における急性心房細動(atrial brillation:AF)について
NOMI(non-occlusive mesenteric ischemia、非閉塞性腸管虚血)について
周術期抗血栓治療マネジメント
脳浮腫/頭蓋内圧(intracranial pressure:ICP)亢進の対応
発作性交感神経過活動(paroxysmal sympathetic hyperactivity:PSH)
心臓胸部術後のvasoplegic syndrome
腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:ACS)

執筆者一覧

■著
太田啓介 静岡県立総合病院集中治療センター集中治療科/急変対応科

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