救急IVR 止血術 完全マスターガイド
IVRによる止血は基本スキルだが、救急現場で的確に行うには時間を意識した工夫が必要であり、難易度は高くなる。本書では貴重な症例をもとに、そのコツをフィードバックする
内容紹介
この1冊に、救急IVRによる止血術を完全マスターするためのすべてを網羅しました。
「救急IVRによる止血経験はあるが、まだ十分な修練や経験値が足りない」と感じている方は、ぜひ本書を手元に置いてスキルアップための一助として活用されることをおすすめします。
また、「経験は十分あるが、もっと効率的に止血するための方策や困難例の乗り越え方など知りたい、基本も改めて振り返りたい」というかたにも十分活用いただける内容になっています。
本書では、具体的な42症例を通して、いかに短時間で的確にIVRによる止血を行うか、そのためコツや工夫の仕方(戦略・戦術)について詳細にわかりやすく解説しています。
また、42症例の中には、うまくいかなかった改善点を含む症例も含まれており、そうした点でも、本書によって経験値を補うに十分な気づきや学びを多く得られることでしょう。
すべての救急医、放射線科医、必携の1冊です。
序文
救急診療では、早期診断・早期治療が重要であることは周知の事実である。患者は何らかの主訴をもって、救急外来を受診し、診察・検査を経て診断に至り、治療へと進んでいく。検査の中でも、画像診断は必要不可欠なものである。しかしながら24時間365日、常に同じレベルで画像検査を行い、同じレベルで画像診断を行うことは多くの施設で困難である。同様に24時間365日、同じレベルで質の高い治療を行うことも困難である。時間的猶予があるのであれば、質の高い治療を行うことができる環境(時間帯や施設、専門性、人員)を整えて、治療を開始すればよい。しかしながら、それを整えるまでの間、治療の開始が遅延することにより、さらなる病状の悪化を来し予後を不良にさせる可能性がある。そのため、患者の状況と治療の環境とを照らし合わせ、バランスを考えながら、最善の状態で治療を行うことが望まれる。
治療方法の中で、IVR(interventional radiology:画像下治療)は完全に治療方法の一つとして確立された分野であり、これを有効に行うことが求められる。IVRを行ううえで、外科手術と同様に考えるとイメージしやすい。予定されたIVR・外科手術であれば、治療計画を立てて、最良の環境、最良の機械・器具、最良の人材、最善の手術方法をプランニングすることが可能である。救急現場では、この応用編もしくは発展編であり、難易度が増す。予定されたIVR・外科手術をマスターしてこそ、救急のIVR・外科手術をマスターすることができる。そして救急でのIVR・外科手術の経験を重ねることにより、一層レベルアップした治療を行うことが可能になる。もっとも、救急症例数は限られており、そのキーとなる考え方や所見をon the job で身につけることは難しく、ある程度落ち着いた段階でフィードバックを受けることが必要である。本書がその一助になればと考えている。
基本編を研修しながらでも、実際には応用編・発展編に対応しなければならない状況に遭遇するものであり、そうした実情を踏まえて、本書では基本編を学び始めた医師、学んでいる医師、応用編・発展編をトレーニングしている医師など幅広い医師を対象としている。本書の中には、いくつかの施設のご厚意により、残念ながらうまくいかなかった貴重な症例も掲載させていただいた。後世に役立てることができるのであればと、お考えいただけたからである。それらの症例から、どのような改善点があったのかを学ぶことができ、その真意をくみ取り、身につけていただければ幸甚である。
目次
はじめに
欧文略語一覧
1 救急IVRと止血術
1 救急診療の流れ
1.外傷診療の流れ
Primary survey
≫ 1.第一印象
≫ 2.気道の評価・処置
≫ 3.呼吸の評価・処置
≫ 4.循環の評価・処置
≫ 5.意識障害の評価・処置
≫ 6.脱衣と体温管理
Secondary survey
≫ 1.CT撮影
≫ 2.CT読影
≫ 3.病歴聴取
≫ 4.身体所見と追加検査
2.内因性救急病態の診療の流れ
≫ 1.気道の評価と処置
≫ 2.呼吸の評価と処置
≫ 3.循環の評価と処置
≫ 4.意識障害の評価と処置
≫ 5.CT撮影
3.緊急CTの使い方
≫ 1.撮影方法の基本
≫ 2.撮影のタイミング
≫ 3.撮影後のデータの利用方法
2 救急診療におけるIVRの役割
1.外傷診療におけるIVRの有用性
≫ 1.循環状態が不良である
≫ 2.出血量が多い
≫ 3.現在進行形の出血が見られる
≫ 4.自然止血が期待できる凝固能を有していない
2.内因性救急病態におけるIVRの有用性
≫ 1.動脈瘤破裂
≫ 2.腫瘍破裂
≫ 3.消化管出血
≫ 4.医原性出血
≫ 5.仮性動脈瘤破裂
≫ 6.喀血
3.外傷IVRと緊急IVRの違い
≫ 1.出血点の数
≫ 2.凝固障害
≫ 3.合併損傷
4.DCIRと外傷IVRの違い
2 止血術をマスターする
1 手技の基本
1.準備
2.消毒・局所麻酔
≫ 1.消毒
≫ 2.覆布
≫ 3.局所麻酔
3.穿刺・シースの留置
≫ 1.穿刺
≫ 2.シースの選択
4.ガイドワイヤとカテーテル選択と操作の要点
≫ 1.ガイドワイヤの選択
≫ 2.カテーテルの選択
≫ 3.カテーテルの操作
5.マイクロガイドワイヤとマイクロカテーテル選択と操作の要点
≫ 1.マイクロガイドワイヤの選択
≫ 2.マイクロカテーテルの選択
6.REBOA
≫ 1.大腿動脈の穿刺
≫ 2.ガイドワイヤが大動脈内にあることを確認する
≫ 3.7Fr.シースを留置する
≫ 4.カテーテル本体を準備する
≫ 5.カテーテル本体を挿入する
≫ 6.スタイレットを再挿入してカテーテルにロックする
≫ 7.カテーテルを固定する
≫ 8.バルーンをインフレートする
≫ 9.その後の注意事項
2 塞栓物質
1.塞栓物質の種類と特徴
≫ 1.ゼラチンスポンジ製剤
≫ 2.金属コイル
≫ 3.NBCA(n-butyl cyanoacrylate)
≫ 4.バスキュラープラグ
2.ステントグラフト
≫ 1.胸部ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair:TEVAR)
≫ 2.腹部ステントグラフト内挿術(endovascular aortic repair:EVAR)
≫ 3.末梢血管用ステントグラフト(バイアバーン)
3 症例に学ぶ止血のコツ
本章の構成と見かた
Case 00 各症例の共通事項
Case 01 肝細胞癌破裂
Case 02 腎血管筋脂肪腫破裂
Case 03 中結腸動脈瘤破裂
Case 04 von Recklinghausen病における動脈瘤破裂
Case 05 膵頭部仮性動脈瘤破裂(正中弓状靭帯症候群)
Case 06 十二指腸潰瘍出血(1)
Case 07 十二指腸潰瘍出血(2)
Case 08 胃潰瘍出血
Case 09 大腸憩室出血
Case 10 慢性膵炎による仮性動脈瘤破裂(1)
Case 11 慢性膵炎による仮性動脈瘤破裂(2)
Case 12 産科危機的出血
Case 13 喀血
Case 14 凝固障害による出血
Case 15 食道癌治療中の大量吐血
Case 16 胃癌術後出血(1)
Case 17 胃癌術後出血(2)
Case 18 胃癌術後出血(3)
Case 19 膵臓癌術後ドレーン刺入部出血
Case 20 血管造影後穿刺部出血
Case 21 腎生検後出血
Case 22 心肺蘇生後血胸
Case 23 骨盤骨折による後腹膜出血(1)
Case 24 骨盤骨折による後腹膜出血(2)
Case 25 骨盤骨折による後腹膜出血(3)
Case 26 骨盤骨折による後腹膜出血(4)
Case 27 脾損傷による腹腔内出血(1)
Case 28 脾損傷による腹腔内出血(2)
Case 29 脾損傷による腹腔内出血(3)
Case 30 脾損傷による腹腔内出血(4)
Case 31 肝損傷による腹腔内出血(1)
Case 32 肝損傷による腹腔内出血(2)
Case 33 腎損傷による後腹膜出血(1)
Case 34 腎損傷による後腹膜出血(2)
Case 35 副腎損傷による後腹膜出血
Case 36 軟部組織損傷による皮下血腫(1)
Case 37 軟部組織損傷による皮下血腫(2)
Case 38 肋間動脈損傷による血胸
Case 39 下横隔動脈損傷による血胸
Case 40 顔面骨折による顔面出血
Case 41 椎骨動脈損傷(1)
Case 42 椎骨動脈損傷(2)
カラー写真一覧
あとがき
索引
Memo
・仮性動脈瘤と血管外漏出像との違い
・動脈優位相で撮影する方法
・damage control surgery(DCS)とは?
・その他の領域の塞栓術について
・CT施工時のアーチファクト
・画像診断の重要性