ナイスバルク! 急性期のリハビリテーションと栄養療法 筋トレのエビデンスから考える

    定価 4,840円(本体 4,400円+税10%)
    中村謙介
    日立総合病院救命救急センター長
    A5判・269頁
    ISBN978-4-7653-1819-8
    2020年03月 刊行
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    筋肉は医療者も患者も裏切らない!インテンシブ・ケア・トレーニングのススメ

    内容紹介

    ICU在室中に生じる急性のびまん性筋力低下ICU-AW対策のための早期リハビリテーションの重要性に注目が集まっている今、あなたと患者のためになる筋トレ理論を学びませんか?

    今筋トレは全世代、全職種にススメられている運動です。かつてスポーツをやっていたみなさんも、これから始めようとするみなさんも、もちろんICUに運ばれた患者さんも最新の科学的なエビデンスのあるトレーニング法と栄養理論で筋肉をバルクアップ!!

    序文

    いきなりで恐縮ですが今まさに時代は筋肉ということができます。本屋に行けば沢山の筋トレや筋肉を謳う図書が並び、インターネットでも様々な情報がヒットするようになりました。街にはフィットネスジムが増え、ジム併設の老人ホームなどもできていることをご存じでしょうか? 決して全員とはいいませんが、老若男女問わず、広く筋トレに興味を持ち、取り込むようになってきました。

    執筆の直近では2018年の流行語大賞に「筋肉は裏切らない」がノミネートされたのも、なかなかにセンセーショナルでありました。サラダチキンに代表されるプロテイン中心の健康食品のブームも筋育ゆえと言うこともできます。テレビでも体を引き締め美しい逆三角形を披露するアイドルが男性女性ともに増えてきているのも事実で、おそらく20年以上前から大きく変化してきていると言えます。筋肉は大事、ということが世間的に認知されるようになってきたわけです。

    おりしも医療の世界でもサルコペニアやフレイルといった高齢者の筋肉減少が注目されるようになり、集中治療の世界ではPICSやICU-AWとして筋肉量減少、能力低下が問題視されるようになりました。世間一般と医療業界が同時期に筋肉に再注目するようになり筋肉の時代が到来したことは偶然ではありません。これらは一重に医療水準の向上により人間が長寿社会を迎えたことに起因します。

    つまり医学の発展により平均寿命が大きく向上し、肺炎や癌などの病気を乗り切った患者、あるいはそれらを予防、回避し長生きする健康人が次に目指すようになるのは当然のことながら健康寿命です。健康に自立した生活を送り続けるために、運動をしよう、筋肉をつけようという話の流れになります。

    超高齢化社会だからこそ多数の高齢者がそのように考えメディアもターゲットとし、そして若年者も健康寿命を延ばすように努力をするようになります。飽食の時代でメタボなどが問題となったこともこれを後押しする形になりました。

    一方で集中治療におけるPICSやICU-AWが認識されるようになったのも、集中治療医学の発展により一昔前であれば亡くなっていた重症患者が救命できるようになり、救命後の患者のその後を医療関係者が見る機会が増えたことから始まっています。生死を分ける重症患者が救命されたものの寝たきりとなってしまう、あるいはハッピーエンドで退院したと思っていたら1年後に肺炎などで再来し精神身体能力低下を抱え生活していたことを知る、などしばしば経験されるケースと思います。

    救命率の向上にある程度の限界を迎え、機能予後や長期予後にoutcomeの注目が移った結果がPICSやICU-AWと言えるわけです。世間でも集中治療医学でも、筋肉への再注目は医療の発展による必然と言えるのです。

    1.筋肉をつけるのは難しい
    しかしながら、御自身で筋トレされている方はよく御存知のことと思いますが、筋肉をつけることはとても容易ではありません。詳細は後の項で詳しく述べますが、脂肪もつきながら太ってよければ筋肉もつけることはできますが大半の方にそれはゴールにならないでしょう。 特に、10代・20代の若い人は同化ホルモンの量と豊富な体力、時間により筋肉を育みやすいのですが、30歳すぎてから筋肉をつけることがいかに大変か。運動だけでなく食事にまで相当な気を使わなければならないのは言うまでもありませんし、限界を攻めるような筋トレができるようになるのも努力が必要です。

    一方で一度病気になると筋肉はかなり減少します。2週間の集中治療で筋肉はおよそ20%も減少すると言われるほどで、そこまでの大病でなくても病気による異化と運動量減少により程度の差はあれ減少します。健康であるからこそ筋肉を培うことができるわけです。それだけ筋肉は尊いものであり筋肉は各人の財産と言えます。筋肉が沢山ついている状態、キン肉マンやマッチョマンは偉大なのです。

    かくして筋肉全盛の時代、病気で体が弱る患者に対してできるかぎり筋肉減少、能力低下を最小限に抑えようと、医学の世界でも集中治療から悪性腫瘍診療、慢性期診療までリハビリテーションや栄養療法など様々なアプローチで挑む時代に突入しました。おそらくこれを読んでくださっている読者も御自身でも筋トレに励んでいる方が多いのではないかと思います。

    2.筋肉をつけるには何をしたらいいのか
    当然体を最低限動かした方がよい、十分な栄養をとったほうがよいと皆認識しているわけですが、実は具体的に筋肉をつけるための方策に関して医療関係者はそこまで熟知していません。たとえば、 「プロテインはどの種類のものを1回何gとるとよいか?」というような、筋トレの最大の軸となるようなClinical Questionに自信を持って答えられる人は少ないと思います。

    また若かりし頃の筋トレに励み筋肉マンでいた方でも、ここ10数年における筋トレの仕方のパラダイムシフトをupdateしている方は少ないと思います。

    もちろんスポーツ医学でもまだわかっていないことが多いですが、何がわかっていて何がわかっていないかを整理することは当然大事です。いかに筋肉をつけるかを日々研究するスポーツ医学者、あるいは日々鍛錬し筋肉を育むアスリートの方々は熱心に筋肉を研究し勉強しています。特にボディビルダーと呼ばれる方々こそ、想像を超えるような筋トレの日々を過ごしているだけでなく、栄養学やスポーツ医学をよく勉強し、自分の体を用いて常に臨床試験のような厳格さで筋トレを模索する、いわゆる科学者たる人が多いのです。

    今こそ我々医療従事者も、これらのスポーツ医学から筋肉を養うための最善の方法を学び、日々の診療に取り入れることが必要ではないでしょうか。

    この本は筋トレのスポーツ医学や栄養学から筋肉をつけるためにどのようにすればよいかをレビューし、生理学を通して基礎から筋肉をつけるための理論を学びつつエビデンスに基づいた筋トレや栄養の取り方を考え、最終的にサルコペニアやICU-AWと戦うためのインテンシブケアトレーニングを提唱していきたいと思います。その知識は必ずや日々の診療に何らかの形で貢献できると思いますし、何より読者諸兄自身の筋トレのためにそのまま応用することができます。この本を全て読んだ後には(自分がそうであったように)、あなたは筋トレがしたくてたまらなくなっていることでしょう。

    ここまで「筋肉」という言葉でまとめて表現してきましたが、筋肉として表現し意義をなすものとして筋肉量とに機能に分けることができ、機能はさらに筋力、持久力、運動能力などに分けることができます。つまり筋トレや筋肉をつけるといった場合には筋肉量を増やすことを目標とする場合と筋力や持久力を上げることを目標とする場合があり、これらは大きく異なります。

    スポーツをやっている人やアスリートは筋力や持久力などの機能が重要な目標になるでしょうし、見た目や代謝をよくすることを目的としていれば目標は筋肉量増加になります。どちらも重要なoutcomeで獲得すべきものであり、この本の中でも筋肉量、筋力、持久力などわけて紹介していきます。

    しかし本全体では特に筋肉量を主たるアウトカムにして議論をしていきます。病後の患者の生活自立や長期予後には機能的側面が最も大事でありますが、ここまで述べてきたように筋肉量もまた非常に大事な各人の財産ということができ、また特に栄養療法は筋肉量が重要なアウトカムの1つになります。

    自分の思いがこの本には強く混入されていることもあり、本全体を通して「primary outcomeは筋肉量」に偏っていることをあらかじめことわっておきますのでそのような目で読んでいただけますと幸甚にございます。それでも必ずやこのアウトカムを考えて日々の診療、そして自分自身の筋トレ、筋育にこの知識を役立てることができると信じています。

    上記の意味でこの本は病気で体が弱る患者を診療しうる全ての医療従事者にお送りしますが、ご自身のトレーニングに筋肉量や見た目、代謝をよくしたい方、すなわちボディビルドを目指す方に特にお勧めします。一方でテニスやサッカーなどスポーツをしたい人、アスリート路線の方には機能面をアウトカムにした議論も必要です。とはいえ筋肉量はスポーツにも重要ですし筋肉や見た目がいらない方はいないと思うので、偏っていることを理解しながら読んでもらえればよいと思います。

    また、著者は専門のトレーナーではありませんので、筋トレの正しいフォームやメニューに関しては筋トレのマニュアルや教本をご参照いただきたきたく存じます。よろしくお願い申し上げます。

    目次

    I部 Introduction 筋肉への注目
    01 なぜ今、筋肉なのか?/筋トレブームとサルコペニア、ICU-AWの関係は?
    02 筋肉は尊い

    Ⅱ部 筋合成の生理から見直す筋トレの方法論
    01 ボディビルドから考える筋量増加の鍵
    02 スポーツ医学の発展と筋タンパク合成
    03 筋トレのエビデンスから考えるエクササイズ
    04 筋トレの栄養学
    05 ドーピングと同化力強化アプローチ

    Ⅲ部 筋合成の生理から考えるサルコペニア、ICU-AW対策総論
    01 はじめに
    02 筋肉の評価方法~筋肉量、筋力、持久力、機能(パフォーマンス)
    03 高齢者・病気時の筋タンパク合成
    04 一般的なICU-AW/PICS対策

    Ⅳ部 サルコペニア、ICU-AWに対する運動・リハビリテーション
    01 サルコペニア・病人の運動・リハビリテーション一般論
    02 ICUでの早期リハビリテーション
    03 早期リハがかえって病態を悪化させる!?
    04 病中病後の運動・リハビリテーションでは炭水化物の前投与
    05 回復期とサルコペニアのリハビリが基本?
    06 ICUで行えるリハビリテーション
    07 呼吸筋のトレーニング/リハビリテーション

    Ⅴ部 サルコペニア、ICU-AWの栄養療法
    01 ICU-AW/疾患急性期の栄養療法
    02 病後回復期、サルコペニアの栄養療法
    03 下痢の恐怖!?
    04 炭水化物vs脂肪 in 集中治療
    05 サルコペニア、ICU-AWともに、栄養と運動を組み合わせることが大事!

    Ⅵ部 サルコペニア、ICU-AWの同化力強化アプローチ
    01 同化力強化の応用可能性
    02 開発中のアプローチ

    執筆者一覧

    ■著者
    中村謙介

    日立総合病院救命救急センター長
    東京大学 救急医学教室

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