胎児中枢神経のMRI診断 正常脳と奇形画像アトラス

    定価 6,600円(本体 6,000円+税10%)
    宇都宮英綱
    帝京大学医学部放射線科学講座病院教授/元高槻病院小児神経センターセンター長
    A5判・146頁
    ISBN978-4-7653-1822-8
    2020年04月 刊行
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    より正確な出生前診断に欠かせない、胎児のMRI診断について系統的に学ぶチャンス!

    内容紹介

    遺伝子解析法の発展とともに中枢神経先天疾患に対する出生前画像診断の臨床的意義はますます重要性を増している。今日では超音波による胎児画像診断に加えて、胎児MRIを撮像することで、より正確な出生前の形態評価が可能になってきた。しかしながら、中枢神経疾患を対象とした胎児MRI診断に関して系統的に解説した成書は極めて少ないのが現状である。

    そこで本書は、胎児期に発生する代表的な中枢神経疾患を取り上げ、まず胎齢を追うごとに変化する正常胎児脳のMRI所見を整理。その上で、代表的な脳奇形を症例ごとに①読影、②診断に必要な基礎知識、③遺伝的背景、④MRI診断のポイントに分けて概説。特に重要と思われる発生学的事項や鑑別診断はサイドメモとして追加した。

    序文

    ヒトの脳は受精後約37週をかけて緩徐にかつダイナミックに変化していきます。そればかりか最近の研究では、出生後も数年から数十年に渡ってその可塑性は維持され、変化し続けることがわかってきました。このような脳の変化の中で、胎児期に何らかの因子が働き、その形成が障害された場合、脳形成不全すなわち脳奇形が発生します。これまで、胎児期における脳奇形の画像診断は経腹超音波検査(胎児エコー)を主体にベッドサイドで行われてきましたが、分解能の限界や必ずしも中枢神経疾患に精通していない施術者がリアルタイムで診断することなどから、その役割は水頭症などの脳の大まかな異常を捉えるスクリーニング的なものでした。一方、今日のMRIの撮像技術の進歩は、胎児期からの中枢神経の形成過程やその異常を安全かつ正確に把握することを可能にしました。すなわち、胎児MRIは超音波検査で指摘された異常所見の詳細評価手段として、脳奇形の出生前診断に欠かすことのできない検査法となったと言っても過言ではありません。

    胎児MRIの最大の利点は、高磁場のMRIであれば原則どの施設でも撮像可能であり、組織コントラスト分解能に優れるため、超音波検査で指摘された異常所見の詳細な評価に適していることです。また、従来、MRIの短所とされていた胎動による画質の低下も最近の高速撮像法を用いれば、必ずしも母体への前処置を加えることなく良質な画像を得ることが可能になりました。さらに、超音波検査に比べて胎児の全体像をscanできる点もMRIの大きな利点の一つです。一方、胎児MRIの最大の難点は、その読影の難しさにあるといえるでしょう。読影を難しくしている原因の一つとしては先にも述べたように、ヒトの脳の形態は妊娠週齢とともに劇的に変化することがあげられます。したがって、正確な診断をするためには、胎児期における脳の形態変化を熟知しておく必要があると同時に中枢神経の発生学的知識が不可欠です。

    このような観点から、本書は、まず胎齢を追うごとに変化する正常胎児脳のMRI所見を整理しました。その上で、代表的な脳奇形を症例ごとに①読影、②診断に必要な基礎知識、③遺伝的背景、④MRI診断のポイントに分けて概説しました。また、特に重要と思われる発生学的事項や鑑別診断はサイドメモとして追加しました。一冊ベッドサイドに置いていただき、必要な時にアトラス的に参照していただければと思っています。

    なお、本書に掲載した症例は、一昨年白血病のため他界された故山崎麻美先生を主任研究者とする厚生労働省難治性疾患克服事業(2009〜2012)の「胎児診断における難治性脳形成性障害症(Fetal brain malformation: FBM)の診断基準作成*」の中で集積された症例から確定診断がなされたものをベースとして選びました。実を言えば本書の企画は6年前に山崎先生から提案されたもので、FBMの研究の際に画像診断の研究責任者をしていた私に執筆の依頼があったものです。発案からすでに6年が経ってしまいましたが、なんとか上梓できる運びになりましたこと、心から嬉しく思うとともに謹んで山崎先生に本書を捧げたいと思います。最後に多大なご協力、ご指導をいただきましたFBMの共同研究者の皆様方ならびに出版に際してご苦労いただいた株式会社金芳堂編集部の一堂芳恵氏に深謝いたします。

    *山崎麻美ら。胎児診断における難治性脳形成障害症の診断基準の作成。京府医大誌 125(4)、223-232、2016.

    目次

    1章 MRIの適応・安全性・撮像法
    適応と安全性
    撮像法

    2章 胎児脳の正常発達
    ① 大脳
    1 妊娠20週の正常胎児
    2 妊娠28週の正常胎児
    3 妊娠35週の正常胎児
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    ② 小脳
    1 小脳のサイズ計測
    2 小脳虫部発達の指標
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント

    3章 脊髄・脊椎の奇形
    ① 脊髄髄膜瘤とChiari II型奇形
    1 脊髄髄膜瘤(早期胎児)
    2 脊髄髄膜瘤(後期胎児)
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント/予後/遺伝的背景と環境因子
    ② 終末脊髄嚢胞瘤
    1 総排泄腔外反を伴った終末脊髄髄膜瘤
    2 終末脊髄髄膜瘤(新生児)
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント/治療/予後

    4章 大脳形成不全
    ① 全前脳胞症
    1 背側嚢胞を伴うalobar型全前脳胞症
    2 背側嚢胞を伴わないsemilobar型全前脳胞症
    3 背側嚢胞を伴うsemilobar型全前脳胞症
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント/予後/遺伝的背景と環境因子
    ② 脳梁欠損症
    1 脳梁完全欠損
    2 脳梁部分欠損
    3 半球間裂脂肪腫(脳梁脂肪腫)を伴う脳梁欠損
    4 脳梁欠損に伴う交通性半球間裂嚢胞
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    ③ 脳瘤
    1 後頭部髄膜瘤
    2 後頭部髄膜脳瘤
    3 頸・後頭髄膜脳瘤/Chiari III型奇形
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    ④ 大脳皮質形成異常
    1 古典型滑脳症
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    2 両側傍シルビウス裂多小脳回
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    3 裂脳症/多小脳回
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    4 丸石様滑脳症(異形成)/Walker-Warburg症候群
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント/Walker-Warburg症候群
    5 脳室周囲(上衣下)結節性異所性灰白質
    診断に必要な基礎知識/遺伝子異常/MRI診断のポイント
    ⑤ タナトフォリック骨異形成症に伴う過剰脳回・脳溝形成
    診断に必要な基礎知識/タナトフォリック骨異形成症
    の遺伝的背景/MRI診断のポイント
    ⑥ 単純脳回型小頭症
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント

    5章 小脳・脳幹の形成不全
    ① ジュベール症候群
    診断に必要な基礎知識/遺伝的背景/MRI診断のポイント
    ② Rhombencephalosynapsis(RES)
    診断に必要な基礎知識/遺伝的背景/MRI診断のポイント

    6章 頭蓋内嚢胞
    ① 後頭蓋窩正中嚢胞
    1 Dandy-Walker cyst
    2 Blake’s pouch cyst
    3 くも膜嚢胞
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント
    ② 脳室周囲仮性嚢胞
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント

    7章 水頭症
    ① 胎児期内水頭症の診断
    ② X連鎖性遺伝性水頭症
    診断に必要な基礎知識/MRI診断のポイント/予後

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    ■著者
    宇都宮英綱 帝京大学医学部放射線科学講座病院教授/元高槻病院小児神経センターセンター長

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