そのエビデンス、妥当ですか?システマティック・レビューとメタ解析で読み解く 小児のかぜの薬のエビデンス

    定価 3,740円(本体 3,400円+税10%)
    監修榊原裕史
    東京都立小児総合医療センター総合診療科
    大久保祐輔(Dr.KID)
    カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公衆衛生大学院疫学部/国立成育医療研究センター・社会医学研究部
    A5判・236頁
    ISBN978-4-7653-1815-0
    2020年04月 刊行
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    小児のかぜの薬には、どんなエビデンスがあるのか? そしてそのエビデンスをどう吟味するのか? 臨床と疫学のギャップを埋める1冊。

    内容紹介

    人気ブログ「ドクター・キッド(https://dr-kid.net)」の著者(Twitter ID:Dr.KID @Dr_KID_)が丁寧に解説。小児のかぜ診療でよく処方される薬のエビデンスを知り、システマティック・レビューとメタ解析の読み方・考え方を理解できるようになる!

    序文

    ■序文

    ほとんどの小児科医にとって、かぜ(急性上気道炎)や急性胃腸炎は小児科外来において生涯で最も多く見る疾患と思います。日常的に診療するこれらの軽症疾患の多くは通常、自然軽快します。このため、これらの疾患のエビデンスの吟味は軽視されがちです。また、エビデンスに基づかない診療をしたとしても自然軽快してしまうがため、「いつもこの処方で軽快しているから」と漫然と処方を繰り返してしまうこともあります。

    小児科も細分化が進んできており、それぞれの小児科医が特化した専門性(サブスペシャリティー)を1つは身につける必要性が年々高まっています。その一方で、小児科医は小児の総合診療医でもあり、多種多様な疾患を広く診療する必要もあります。これは細分化が進んでいく医療における小児科の魅力の1つでもあり、逆に難しさでもあると思います。日々、小児科のサブスペシャリティーを研鑽しながら、小児科の幅広い疾患の知識を得ていくのは、多忙な小児科において至難の業かもしれません。このため、ついつい軽視されてしまうのが、かぜや胃腸炎といった軽症疾患の診療です。さらに、かぜや胃腸炎といった軽症疾患のエビデンスを吟味し、システマティック・レビューやメタ解析の読み方・考え方を身につけようにも、効率的な方法がなく、試行錯誤されている方も多いのではないでしょうか。

    この本は、小児を診療する医療者がよく抱くギャップやジレンマを埋めることを目標に執筆しました。1つは、小児のかぜ診療でよく処方される薬の必要な知識を、過去に行われた研究をもとに網羅的に記載しました。具体的には、システマティック・レビューやメタ解析と、そこに掲載された個々の論文をカバーしています。医学書の多くは、病態生理に基づいて記述され、それを支持する一部の参考文献のみがエビデンスとして提示されていることが多いです。確かに病態生理を理解することは非常に重要です。しかし、それを支持するエビンデンスがどのようなものかを知っておくことも重要なのです。すなわち、治療の有効性や危険性は相対的なものであり、質の高いランダム化比較試験(RCT)や観察研究の結果を網羅的に知る必要があります。このため、この書籍では、個々の研究は選り好みせず、可能な限り文献を集め、私が目を通した論文数は200を超えています。

    もう1つはエビデンスの吟味の方法です。システマティック・レビューとメタ解析は「ゴールドスタンダード」「最強のエビデンス」などと比喩されていますが、疫学研究者として論文を読むと、その質は玉石混淆です。特に小児科領域ではRCT自体が非常に少なく、エビデンスは限定的なものばかりです。このため、臨床医にとっては少し酷な話ですが、エビデンスを語るには、医療者もメタ解析の結果を吟味することが必要です。この本では、システマティック・レビューとメタ解析がどのように行われ、どのように評価されているのかを、疫学的な視点から解説しています。

    本書を読むことで、小児のかぜでよく処方される薬のエビデンスを知り、システマティック・レビューとメタ解析の読み方・考え方を理解できるように工夫しています。多くの小児の診療に関わる医療者が本書を手に取り、より良い診療のために役立てられることを期待しています。

    カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公衆衛生大学院疫学部
    国立成育医療研究センター・社会医学研究部
    大久保祐輔
    ペンネーム:Dr. KID


    ■あとがき

    疫学研究をしている職業柄、英語論文の読み書き、査読は沢山行っています。その数は、執筆は年に5〜10本、査読は30本前後で、この生活を5年ほど続けています。一方で、正直に申し上げますと、細々と疫学研究をしているかつての小児科医である私に、日本語で本を書く機会が訪れるとは想像すらしていませんでした。疫学研究に重心を置くにつれて、臨床的なことを忘れないためにDr. KIDというペンネームで細々と記事を執筆したり、少し知名度が上がってきて出版社から執筆依頼があり、単発的に活動をしていました。そこに、医学書の執筆の依頼をいただいたのが2019年1月頃でした。かなり悩んだあげく「小児でよく診療する疾患と薬のエビデンス」について書こう決めました。

    序文にも少し触れましたが、かぜや胃腸炎は小児を診療する医師であれば非常によく遭遇する疾患です。しかし、軽症であることが多く、自然軽快する性質からか、エビデンスの吟味が軽視されがちな分野と思います。このため、かぜや胃腸炎の診療は、上級医からの言い伝えや、教科書を軽く読むくらいで済ませている方が多いのではないでしょうか。医療へのアクセスが格段に良い日本の小児科においては、総合診療医としての役割を担い、さらにサブスペシャリティーも極めなければいけない状況にあります。このため、語弊を恐れずにいうと、「自然軽快する軽症疾患」より「入院が必要となる重篤な疾患」の勉強を優先するのは、時間的な制限も考慮すると、ある意味では仕方のないことのように思います。何を隠そう、かつての私もそういった医師の一人でしたし、同じようなスタイルの医師を責めるつもりは毛頭ありません。このため、この本はそのような医師であった「かつての自分」へ書いた本でもあります。あるいは、「かつての自分」と同じ境遇に置かれている小児を診療する医師へエールを送るつもりで書きました。「忙しくて個々の論文は読み込めないけれども、小児のかぜ診療のエビデンスを知りたい」という方が、私の書籍を読んで、何かを得ることができたとしたら、それは執筆者としては、この上ない幸せです。

    また、個々の論文を読んでも「研究のデザインを、統計手法を、P値を、治療効果をどう評価して良いかわからない」という別の問題もあるでしょう。恥ずかしながら、私も5年前までは臨床医として働いており、統計も疫学も全くわからない人間でした。このため、「統計学的な有意差があるから」「有名誌に出ているから」「英語論文は査読がされているから」「メタ解析の結果だから」といった安易で適当な理由を見つけて「この結果は信頼しても良い」と盲目的に信じていました。2015年以降、ハーバード大学とUCLAの公衆衛生大学院で疫学を学び、私のかつての考え方が、あまりに大きな誤りをしていたことに気づきました。少々厳しいことを申し上げますと、英語で記載された医学論文を読みこなすには、英語の理解力だけでは不十分です。それだけではなく、統計・疫学的な方法論の正しさ、バイアスの評価、そして執筆者の論理構造への理解が必要で、これのどれか1つが欠けても正しい論文の解釈は成立しません。特に、臨床医として注目することが多いのはシステマティック・レビューとメタ解析ではないでしょうか。本書ではそれらを読む際に必要な知識をLectureとして入れました。できるだけ初学者でも理解できるように執筆しましたが、統計学的な箇所などは完璧ではないと思います。本書を学習の入り口として考えていただけると幸いです。

    最後に、この本の監修を引き受けてくださった東京都立小児総合医療センターの総合診療科医長の榊原裕史先生に深くお礼を申し上げます。私は現在、アメリカの公衆衛生大学院にフィールドを移し、疫学研究に重心を置いています。このため、書籍執筆にあたり、臨床面に関して、友人または過去の上司に依頼し査読を受けるべきと感じていました。執筆依頼をいただいた時に、真っ先に思い浮かんだのが榊原先生でした。榊原先生は、私の後期研修医時代の上司であると同時に、小児科医としての経験・知識だけでなく、人格を含めた人間面についても教えてくださった、心から尊敬する恩師の1人です。お忙しいのは重々承知していましたが、査読を快く引き受けてくださり、誠にありがとうございました。私が研修医だった頃のように、こうして一緒に本を執筆できたことをとても嬉しく思います。

    この本の執筆の機会を作っていただいた金芳堂編集部・黒澤健様にも厚くお礼申し上げます。私が初めての執筆というのもあり、初校の文章は、文体や論理構造、読みやすさなど、かなり難ありの状態でした。これらの修正・訂正箇所を1つ1つ指摘するのは気が遠くなる作業であったと思うと、とても申し訳ない気持ちで一杯でした。しかし、毎回送られてくる訂正箇所を印した校正原稿は、初めての執筆で不安を抱える私にとっての救いであり、また黒澤様のプロとしての誇りを感じる瞬間でもありました。こうして1冊の本を一年かけて、一緒に作り上げることができ、とても感謝しています。

    カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公衆衛生大学院疫学部
    国立成育医療研究センター・社会医学研究部
    大久保祐輔
    ペンネーム:Dr. KID


    プロフィール:
    大久保祐輔(ペンネーム:Dr. KID)
    2009年東北大学医学部医学科卒業
    初期研修:横浜市立みなと赤十字病院
    後期研修:東京都立小児総合医療センター
    2016年にハーバード大学公衆衛生大学院の修士課程を卒業。同年より国立成育医療研究センター・社会医学研究部などで共同研究を開始。2017年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公衆衛生大学院疫学部において、因果推論とその応用をテーマに勉学と研究を続け、現在に至る。
    ブログ:ドクター・キッド https://dr-kid.net
    Twtter ID:Dr.KID @DR_KID_

    目次

    1 小児の咳止めの科学的根拠
    2 小児の気道感染症と去痰薬の科学的根拠
    3 抗ヒスタミン薬の科学的根拠
    4 小児の咽頭炎とトラネキサム酸,咳と気管支拡張薬・ヴェポラッブ®の科学的根拠
    5 解熱薬(主にアセトアミノフェン)の科学的根拠
    6 整腸剤(プロバイオティクス)と小児の下痢の科学的根拠
    7 止瀉薬の科学的根拠
    8 制吐剤の科学的根拠
    9 科学的根拠から見た小児のかぜと鼻洗い・鼻吸い
    10 小児のかぜとロイコトリエン受容体拮抗薬の科学的根拠
    11 科学的根拠から見たかぜの自然経過
    Lecture システマティック・レビューとメタ解析

    執筆者一覧

    ■監修
    榊原裕史  東京都立小児総合医療センター総合診療科

    ■著者
    大久保祐輔 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公衆衛生大学院疫学部/国立成育医療研究センター・社会医学研究部

    ブログ:ドクター・キッド https://dr-kid.net
    Twtter ID:Dr.KID @DR_KID_

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