愛知県がんセンター 頸部郭清術
著 | 長谷川泰久 |
---|---|
愛知県がんセンター中央病院 |
- 【 冊子在庫 】
電子書籍書店で購入
豊富なイラストと術中写真を駆使。頭頸部がんの外科的治療の基本術式「頸部郭清術」がリアルにわかる。長谷川博士の渾身の集大成。堂々刊行!
内容紹介
頸部郭清術は甲状腺を含む頭頸部がんの外科治療における基本術式である。画像診断の進歩による進展範囲の診断の精度の向上に伴い、症例の進展度に応じた手術が求められ、選択的頸部郭清術、さらに個別的頸部郭清術へと展開してきていることを踏まえて書き下ろした。
頸部郭清術を行う場合、年齢、全身状態、原発巣・頭頸部転移の進展度や病理組織的悪性度などを考慮して郭清範囲を決定するが、本書ではそれらの知識の解説はなく、頸部郭清術だけに焦点を絞っている。
1章で頸部郭清術の欧米およびわが国の歴史の紹介、2章でリンパ節と筋肉の解剖、続いて3章では術式の分類、4~11章までは愛知県がんセンター方式の手術手技を豊富な画像(術中写真)とカラフルな図解を駆使して解説、最後12章で頸部郭清術の均一化を図った研究班の成果にも触れ、系統的に書かれている。
画像診断の進歩も著しく、郭清範囲が検討されるようになった今日、頸部郭清術の基本はしっかり抑えて、「機能温存」と「低侵襲性」をキーワードとして頸部郭清術の新たな展開に対応した解説書とも言える。
もっとも中核となる「第7章 全頸部郭清術」の一部をサンプルとして公開中!
■姉妹本紹介
長谷川泰久先生ご執筆、姉妹本の情報はこちら
序文
推薦のことば
本書の特徴は、頸部リンパ節郭清術だけに絞り込んだところにあると考えるが、最初にゲラ刷りを拝見した折には、頸部郭清術を日常診療として行っているものにとって、必読の書になるのかという点で疑問をもった。それは頸部郭清術を行うにあたって、年齢、全身状態、原発巣・頸部転移の進展度、病理組織学的悪性度等々を考慮してどの範囲をどの程度郭清するか決定することになる。しかしこの点については診療ガイドライン等にも記載があり各施設での方針もあるので、これらの点には触れず、頸部郭清術だけに焦点を絞った数少ない書である。何回か読み直しているうちに、著者の目指すものが少しは見えてきたように思う。
本書は松浦秀博博士の流れをくむ著者が力を込めて書かれたものである。著者の熱意と拘りに敬意を表したい。頸部郭清術の歴史としてまとめられた第1章は欧米のもの、本邦のものなどについて紹介されている。がん転移に対する、頸部郭清術の歴史を見ると所謂“根本的頸部リンパ節郭清術”が原則とされていた時代からわずか30〜40年で現在のような術後機能を考慮した郭清範囲の設定、温存すべき筋、神経、血管などが検討され、機能温存に配慮した郭清範囲の設定が一般に行われるようになった。
第4章から11章までは河辺、松浦、長谷川、各先生と引き継がれた愛知県がんセンター方式の手術手技が、豊富な図と術中写真を駆使して書かれている。
また第12章では、頸部郭清術の均一化を図った厚労省の研究班の成果も取り上げている。この班研究は参加施設の頸部郭清術を複数の班員で手術見学に出向き術式の均一化を目指したもので、その労力は大変なものであったと思われる。その成果は、評価委員会でも高く評価されたものである。
原発巣に対する頸部郭清術の切除範囲の設定にあたっては、術後機能障害の軽減、新たに発生した第二がん、更には次々と発生する多重癌(殊に頭頸部領域の癌)の対策についても配慮すると、郭清範囲の決定は必ずしも容易ではない。前述のごとく、性・年齢、臨床病期、原発巣の部位と所見、病理組織学的悪性度など症例の状況等々を考慮し、ご本人の希望を極力取入れた上での同意が必須となる。極めて少数の症例ではあるが、口蓋扁桃で正中に及ぶ巨大な長径は6cmに及ぶが明らかな潰瘍形成はなく、周囲組織へ浸潤傾向もない原発巣があり、頸部転移も6cmにも達するが単発という例で、患側の口蓋扁桃摘出とリンパ節転移摘出で、再発なく経過した2症例を経験している。各症例の置かれた状況に応じた対策が臨床の現場では必要となる。近年の画像診断の進歩は著しいものがあり、それらを有効に使って症例ごとの郭清範囲が検討される時代へと移っているように思うが、それにしても頸部郭清術の基本は心得ておく必要がある。そのためにも、著者の永年の経験の集大成ともいえる本書を手元に置くことをお薦めしたい。
2016年10月
国立がんセンター東病院 名誉院長
海老原敏
はじめに
頸部郭清術は頭頸部がん外科的治療の基本術式の一つである。がんの治療においては原発部位と領域リンパ節を一塊一括en blocに切除する。
Halstead,W.S.は1894年に乳がんにおいて、胸筋切除乳房切除と腋窩リンパ節郭清術を伴う乳房切除術を報告し、治療成績の向上を示した。原発部位切除と徹底した領域郭清が治癒率向上の鍵であるとするen bloc切除が、がん外科的治療において重要であるとするHalstead理論は他の領域にも応用された。頭頸部がんの外科的治療においても同様であるが、ただ頭頸部がんにおいては領域リンパ節郭清術を頸部リンパ節郭清術でなく、頸部郭清術と称することと、頸部郭清術が単一の術式として成立することが他と異なるところである。
Radical neck dissectionを頸部郭清術と称した岩本彦之亟は最終講義において以下のようにこの手術法を述べている。「私は文献を見まして、これは良い方法だというので昭和26年の頃からこの方法を行いまして、日本で初めてRadical neck dissectionの症例とその解説を発表しました。Radical neck dissectionというのはただ腫れているリンパ節だけを摘出するのでなくて、胸鎖乳突筋、内頸静脈、副神経、およびこれらに沿うすべてのareolar tissueいわゆる脂肪組織とか、リンパ系統結合組織をen blocに全部一塊として摘出する方法でありまして、ときには唾液腺まで取ることもあります。だから手術創に残されるものは頸動脈、迷走神経、横隔膜神経、舌下神経ぐらいが露出されている状態にするのであります」。
en blocが頸部郭清術の基本であるが、これはしばしば機能障害を伴う。この概念を維持しつつ機能の温存を図ってきたのが今日の頸部郭清術の歴史である。Radical neck dissectionにおいて頸部郭清術の基本概念と術式を理解し、そこからの術式の展開を知ることが、最適な頸部郭清術を行うために重要である。
この書を仕上げるに当たり、筆者が2002年から2007年度まで参加した厚生労働科学研究費補助金による研究班Japan Neck Dissection Study Groupの研究成果を大いに参考にさせていただいたことを記しておく。
2016年10月
長谷川泰久
目次
推薦のことば
はじめに
1章 頸部郭清術の歴史
2章 リンパ節と筋膜の解剖
1 筋膜の解剖
2 リンパ節の解剖
3 その他の重要な解剖構造
-1.頸動脈
-2.内頸静脈
-3.頸神経(頸神経叢、腕神経叢、横隔神経)
-4.脳神経(顔面神経、迷走神経、舌下神経、副神経)
-5.胸鎖乳突筋
-4 頸部解剖のポイント
3章 頸部郭清術式の分類
1 これまでの頸部リンパ節分類法と頸部郭清術分類法
2 放射線治療研究グループによるレベル分類
3 本邦の頸部郭清術の分類
-1.JNDSG分類
≫①頸部郭清術の分類と名称に関する2005年案の考え
≫②頸部リンパ節領域
≫③頸部郭清術の分類と名称
≫④術式の簡略表記法
≫⑤JNDSG2010頸部郭清術分類の改訂点
≫⑥頸部郭清術の呼称
≫⑦頸部郭清術のタイミング
≫⑧AAO-HNS・AHNS2008年分類との違い
4章 頸部郭清術の概念(楕円柱を切り出す)
5章 手術手技の基本
1 メスとハサミの扱い方
-1.メスを用いた頸部郭清術の基本手技
-2.頸部郭清術でのメスの扱い方
-3.ハサミ(剪刀)
2 皮膚切開法
3 手術に用いる器材
6章 頸部リンパ節転移に対する治療の適応と選択
1 治療法の選択
2 頸部郭清術
-1.治療的郭清と選択的郭清
-2.術式
-3.潜在的転移
-4.転移パターンと予防的郭清術での郭清範囲
-5.頸部郭清術の選択と適応
3 放射線治療
4 アジュバント療法
7章 全頸部郭清術
1 ND(SJP)
2 ND(SJP/VNM)(根治的頸部郭清術)
3 ND(SJP/VM)とND(SJP/M)
8章 選択的頸部郭清術
1 ND(SJ1-2)
2 ND(J)
3 その他の選択的頸部郭清術
-1.ND(JP/VNM)
-2.ND(JP/VM)とND(JP/M)
-3.ND(SJ)
4 前後アプローチ
5 原発部位との連続性
9章 その他の郭清術
1 気管周囲郭清術〔ND(C1)、ND(C1-2)〕
-1.反回神経の走行
-2.甲状腺癌右葉峡部切除での郭清の手順
2 咽頭後リンパ節郭清術
-1.咽頭後リンパ節のリンパ流
-2.咽頭後隙
-3.咽頭後隙を含む副咽頭間隙に対するアプローチ
-4.下方アプローチによる咽頭後部郭清術の概念と手技
-5.側下方アプローチ
3 後頭側頸部郭清術(Posterolateral neck dissection)
10章 頸部郭清術後の合併症と対応
1 喉頭浮腫と反回神経麻痺による気道閉塞
2 乳糜漏
-1.経頸法による胸管結紮術
3 頸部郭清術後のQOL
11章 化学放射線治療後頸部郭清術
12章 頸部郭清術の均一化
あとがき
文献・日本語索引・外国語索引