その常識は古いかも!? 一冊で解決する 性感染症外来診療

  • 未刊
定価 4,510円(本体 4,100円+税10%)
小西啓司
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター感染症内科
監修忽那賢志
大阪大学大学院医学研究科感染制御学
A5判・208頁
ISBN978-4-7653-2073-3
2025年12月 刊行
【 冊子在庫 】
未刊
購入数

★2025年12月下旬 発売予定!★

よくある症状から性感染症を鑑別し、デリケートな内容を問診、説明するためのコツやポイント、最新の治療薬などについて網羅!

内容紹介

日本性感染症学会 第38回学術大会(2025年12月20~21日・名古屋市)にて先行発売予定!

近年急増している梅毒をはじめ、性感染症は増加傾向にあります。感染の自覚があると保健所や専門医を受診するものの、自覚がなくコモンな症状で一般外来を受診しに来た患者を診る場合、適切な診療を行うことが、慢性化・難治化やさらなる蔓延を防ぐために重要です。そこで、本書では、性感染症の基本から診療まで幅広く網羅し、最新の知見も盛り込みました。性感染症患者に対応する医師、看護師、薬剤師が、エビデンスに基づいた正しい知識をアップデートできる参考書です。

序文

監修のことば

本書を手に取ってくださった皆さま、ありがとうございます。性感染症(STI)をめぐる風景は、この数年で静かに、しかし確実に姿を変えてきました。症例数の増減だけでは捉えきれない「見えにくさ」が増し、無症候で進む感染、咽頭や直腸など部位特異的な感染、受診行動の多様化が同時に進行しています。現場では、一人ひとりの語りに耳を傾けながら、検査・治療・支援を確かな根拠でつないでいく力が求められています。本書は、そのための地図とコンパスになるために、小西先生がせっせと書き進めたものです。

近年のSTIをめぐる風景のうち、特筆すべきものとして、まず、性の多様化が挙げられます。SOGIの理解が広がり、LGBTQ+を含む多様な当事者が医療へアクセスしやすくなりつつありますが、まだ敷居の高さや言葉の壁は残っています。私たちは「誰にでも起こりうる感染」を前提に、前提を押しつけない問診、解剖学に即した検査部位の選択、プライバシーと尊厳を守る環境づくりを当たり前にしていく必要があります。たとえばMSMでは咽頭・直腸のマルチサイト検査が鍵になり、トランスジェンダーの方ではホルモン療法や手術歴への配慮が欠かせません。小さな言い換えや配慮の積み重ねが、医療への信頼を育てます。

次に、新興・再興感染症への備えです。2022年以降に注目されたエムポックス(mpox)は、国際的な人の移動とコミュニティのネットワークが感染症の広がり方を変えることを私たちに示しました。偏見ではなく具体的な感染経路を見つめ、丁寧な情報提供を組み合わせることが大切です。海外渡航や大規模イベント、オンラインで広がる出会いの場など、行動様式の変化も視野に入れて対応していく必要があります。年齢にかかわらず性的健康を支えること、患者さんの安全と尊厳を守ることも、同じ線上にある課題です。

三つ目は、耐性菌の出現です。淋菌やMycoplasma genitaliumの薬剤耐性は、「いつもの薬」で何とかなる時代が終わりつつあることを警告しています。適切な部位からの検体採取、感受性情報の参照、治療後のテスト・オブ・キュア、そしてパートナーへの対応までを一連のケアとして組み立てることが、個人の利益と公衆衛生の両方を守ります。経験則に頼りすぎず、エビデンスに基づく標準化と、地域・渡航歴に応じた柔軟さを両立させていかなければなりません。

そして、大きなトピックとして予防の選択肢が広がってきたことが挙げられます。HIV曝露後予防(PEP)は緊急時の選択肢としてある程度は国内でも定着しましたが、72時間以内の開始と適切なフォローが重要です。HIVの曝露前予防内服(PrEP)は、個々のリスクに合わせて提案できる前向きな予防医療として位置づき、定期的な検査やアドヒアランス支援、他のSTIスクリーニングとの統合が成功の鍵となります。もちろん、コンドームだけに頼らない多層的な介入——健康教育、ワクチン(HPV、B型肝炎、A型肝炎)、迅速な検査と治療、パートナー通知——を組み合わせることで、はじめて予防は生活に根づきます。

本書は、そうした実装の視点を第一線の皆さまと共有するために、問診の言葉づかいから検査の選び方、耐性時代の薬剤選択、パートナー対応、若年者・高齢者・トランスジェンダー・渡航者・性暴力被害者支援まで、現場で迷いやすいポイントたちをできる限り短い導線で結び直された本となっています。小西先生の真面目で誠実な性格がよく現れた、「正しさ」を押しつけるのではなく「明日から使える」手触りを大切にした内容になっていると思います。

本書が、読者の皆さまのSTI診療にお役立ていただくことを心より願っています。

大阪大学大学院医学系研究科感染制御学
忽那賢志


はじめに

深夜2時、救急外来の電話が鳴る。「38℃の熱と、喉の強い痛みです」。一見すると、よくある扁桃炎かインフルエンザかもしれません。しかし、もしその症状が、数日前のオーラルセックスを介した淋菌や梅毒の初期症状、あるいは数週間前の性交渉による急性HIV感染症のサインだとしたら—あなたはこの可能性を瞬時に鑑別できるでしょうか。

近年、梅毒をはじめとする性感染症(STI)は、都市部を中心に爆発的な増加を見せています。もはやSTIは、一部の専門家だけが対応する疾患ではありません。初期研修医、総合診療医、専門外の医師、そしてプライマリケアを担うすべての医療従事者が、日常診療で「隠れたSTI」に直面する時代となっています。

しかし、現実の医療現場では、STIに対する知識不足や偏見が患者さんを傷つけてしまうケースが後を絶ちません。私自身のHIV診療の経験でも、この問題の根深さを痛感する場面が数多くありました。紹介されてくる患者さんの中には、「他の病院で心ない扱いを受けた」、「本人の許可なく家族の前で突然陽性を告げられた」と話される方がいます。その根底にあるのは医療者の悪意ではなく、古い誤った知識です。特にHIVは治療法が劇的に進歩し、「U=U(ウイルスが検出限界値未満であればHIVは感染しない)」という科学的コンセンサスが確立された現在でも、かつての「死の病」というイメージが払拭されていません。このようなスティグマ(社会的な負の烙印)は、他の多くのSTIにも共通する課題です。

本書は、こうした医療現場の誤った知識を正し、すべての医療者が自信と思いやりを持って患者さんに接することができるようになることを願って執筆しました。STI診療の専門家でない方々が日常診療で遭遇する疑問に的確に答えるための実践ガイドです。各章は「まずこれだけ!」という要点から始まり、最新のガイドラインに基づいた診断と治療を具体的に解説しています。特に診断に迷う非典型例や、高齢者、妊婦、LGBTQ+といった多様な背景を持つ患者への対応など、教科書だけではカバーしきれない「現場の疑問」にも踏み込んでいます。

STI診療では個々の疾患知識も重要ですが、より本質的なのは患者さんと社会全体を包括的に捉える視点です。近年、海外では予防、カウンセリング、パートナーへの対応といった包括的なケアが重視される傾向にあり、こうした観点からの情報提供がますます求められています。本書では最新の医学知識に加え、患者さんのQOL向上につながるこれらのケアについても詳しく解説しました。

この本がSTIに関する正確な知識を広め、医療現場からスティグマや差別をなくす一助となること、そして何より、病に悩む患者さんが安心して医療を受けられる環境を作るための一助となることを心から願っています。

2025年11月
小西啓司

目次

監修のことば
はじめに

CHAPTER 1 性感染症診療の基本をマスターせよ!
1 これだけ押さえたい! 性感染症の基礎知識
性感染症とは?
STIの現状
STIの病原体と感染経路
STIの主な症状と診断の流れ
STI治療と予防
STIに関する法規制

2 問診のコツとポイント
5P’sフレームワーク
STI問診におけるコミュニケーションスキル
コミュニケーションのポイント
問診票の活用

3 性感染症診療における倫理的配慮
医療倫理の原則
プライバシー保護の徹底
インフォームド・コンセントの重要性

4 性感染症におけるスティグマ
スティグマの分類
スティグマがもたらす影響
私たち医療者にできること

CHAPTER 2 性感染症診療の虎の巻:各論編
1 梅毒
病原体
疫学
症状
診断
治療
重要な合併症:神経梅毒の診断と治療

2 淋菌感染症
病原体
疫学
臨床像
診断
治療

3 クラミジア感染症
病原体
疫学
臨床像
診断
治療

4 非クラミジア性非淋菌性尿道炎
病原体
疫学
臨床像
診断
治療

5 HIV感染症
病原体
感染経路
疫学
臨床像
診断
治療
抗HIV薬の薬物相互作用
HIV陽性者の今後の課題

6 ウイルス性肝炎
病原体
疫学
臨床像
診断
治療

7 HPV感染症
病原体
疫学
臨床像
診断
治療

8 ヘルペス
病原体
疫学
臨床像
合併症
診断
治療
再発時の治療

9 エムポックス
病原体
疫学
臨床像
診断
治療
予防接種

10 腟炎
腟炎の初期対応
細菌性腟症
カンジダ腟炎
腟トリコモナス症

CHAPTER 3 あわてなくてOK! 性感染症のQ&A
Q1 見逃すと大変! 要注意のSTIとは
見過ごされやすさもSTIの特徴
重篤な合併症を引き起こすSTI
症状がなくても検査が推奨される場合

Q2 教科書通りじゃない! 珍しい症例

Q3 専門医紹介のタイミングは?
専門医への紹介を検討すべき主なケース

Q4 検査はすべて陰性……それでもSTI?

Q5 HIV陽性者を診療するときの対応は?

Q6 梅毒の謎:なぜRPRは下がらない?

Q7 治療中のセックス、アリ? ナシ?

Q8 治療後のフォローアップ、いつまで必要?

Q9 入院時のスクリーニング検査(HIV、梅毒)は全例必要?

Q10 郵送検査で陽性と診断された患者が受診したら?

CHAPTER 4 明日から使える! 性感染症予防のエッセンス
1 伝えよう、広めよう! 効果的な性感染症予防教育
STI教育の意義と効果
効果的な教育方法
医療従事者が直面する課題と対策

2 コンドームだけじゃない! 最新の予防策を知る
コンドームによるSTI予防
PrEPによるHIV予防
Doxy-PEPによるSTI予防

3 ワクチンパワー:HPV、肝炎、そして未来
HPVワクチン
HBVワクチン
HAVワクチン
未来のワクチン

4 医療者も危険? 職業感染から身を守れ
HIV職業曝露とPEP
B型肝炎

CHAPTER 5 こんなときはどうする? 状況ごとの対応
1 妊婦と性感染症
はじめに
梅毒
HIV感染症
B型肝炎
性器ヘルペス
淋菌感染症
クラミジア感染症

2 青少年と性感染症
青少年のSTIの現状
デジタル時代の出会い:マッチングアプリとSNSの影響
青少年の性行動
医療機関での対応

3 高齢者と性感染症
高齢者のSTIの現状
高齢者の性行動
医療機関での対応

4 LGBTQ+と性感染症
LGBTQ+とは?
LGBTQ+とSTIの現状
LGBTQ+とSTIのリスク
医療機関での適切な対応

5 海外渡航と性感染症
海外渡航者のSTIリスク
海外渡航者のSTIの現状
地域別のSTIリスク
医療機関での対応

6 性暴力と性感染症
性暴力とSTI
性暴力後のSTIリスク

付録 主な性感染症の概要と治療法
索引
著者・監修者プロフィール

執筆者一覧

■著
小西啓司 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター感染症内科

■監修
忽那賢志 大阪大学大学院医学研究科感染制御学

トピックス