外科病理診断学
-原理とプラクティス-
監修 | 真鍋俊明 |
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京都大学名誉教授 | |
編集 | 三上芳喜 |
熊本大学医学部附属病院病理診断科教授 |
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病理診断を確定するための基本的な考え方と病理診断の作法を習得できる。
内容紹介
病理診断学をめぐる状況は大きく変化し、病理医がかかわる業務や習得すべき技術、知識は増加の一途をたどっているが、本書では、病理にとって最も重要な組織形態の観察に基づいて病理診断を確定するための基本的な考え方と病理診断の作法を教授する。また、専門医プログラムを補完し、今日の実地臨床の場で病理医が知っておくべき事項がまとめてある。
はじめに、病理診断学をその歴史とあわせて俯瞰し、次に方法論を解説する。病理検体の肉眼観察と検体処理、顕微鏡的観察の仕方について述べた後、病理形態のパターン認識ののすすめ方について、豊富なイラストと写真を用いて実例を挙げながら詳述した。
後半では、病理診断学に関連する技術、細胞診について解説したほか、診療に必要な病理診断情報を適切に伝えるための報告書の作成の仕方についてまとめた。また、今日的には医療安全への貢献も病理診断学の中で大きなテーマであることから、病理部門の運営および精度管理に関する事項につい概説した。そして、臓器ごとあるいは疾患ごとに病理診断の過程には若干の違いがあることから、各論として実際の症例を用いて診断に至るまでの過程を示した。
序文
医療における病理診断学、あるいは本書のタイトルでもある外科病理診断学が果たす役割は大きく、ゲノム医療が発展している今日においてもその重要性は何ら変わりがない。しかし、様々な技術革新により、その手法は大きく変貌し、主として形態観察に基づく病理診断学の体系が様変わりしつつあるのもまた事実である。そのような状況の中で、このたび「外科病理診断学」を上辞することとなった。本書は1998年に出版された「外科病理学-病理診断学のつけかた・考え方」の改訂版であるが、事実上は1986年に医学書院より出版され、その後絶版となった「外科病理学入門-パターン分類による診断へのアプローチ」を初版とする第3版といってもよい。
前版から約20年を経た今回の出版にあたっての基本的な思想は、病理診断学の原理と基本的な作法は現在でも全く変わっていてないということであり、これが同時に我々が読者に伝えたいメッセージでもある。本書は病理診断学を学び始めた人に贈る入門書であり、方法論を解説した書でもある。しかも、決してハウツー本を意図したものではなく、病理医としての基本的な姿勢を伝える哲学書的な側面をもたせるような記述も加えた。従って、初学者だけではなく既に病理専門医の資格を有する中堅以上の病理医にも益するところが少なくないと信じている。医学の進歩と技術革新によって病理診断学の守備範囲が広がり、かつ複雑化、高度化する一方で、専門領域によっては分子遺伝学的情報と比較して相対的に病理診断の重要性が低下している状況の中で、病理診断学の将来について不安を抱く病理医の声を耳にすることがある。しかし、その原理と実践のための方法論を知ることによって、読者それぞれが自分たちの専門性に自信を持ち、日常の診療と病理診断学の発展に貢献をしていただくことが著者らの願いである。
本書では、はじめに病理診断学をその歴史とあわせて俯瞰し、次に方法論を解説する。病理検体の肉眼観察と検体処理、顕微鏡的観察の仕方について述べた後、病理形態のパターン認識の方法について豊富なイラストと写真を用いて詳細に記した。パターン認識は組織像から情報を読み取り、分析を行うための出発点になる。このプロセスは弱拡大、中拡大、強拡大の各段階で行われ、得られた情報が統合された後に、可能性のある診断、すなわち鑑別診断を挙げるという作業に移ることになる。さらに臨床情報、病変の肉眼所見を加え、組織化学染色や免疫組織化学、遺伝子解析などの補助的方法を用いて診断を絞り込み、最後に確定する。この一連の作業のすすめ方について実例を挙げながら詳述した。我々はこのようなアプローチの仕方を「病理診断の作法」と呼んでいる。その根底にあるロジックは、基礎医学としての病理学とは性格を異にする。一定の経験を積んでいれば病理診断そのものは多くの場合可能であるが、病理医は自らの診断の根拠を、それを依頼した他の診療科の医師や患者に論理的かつ明確に説明できなければならない。また、病理医には次の世代を担う人材を育成する教師、指導者としての側面があり、特に教育施設・病院の病理医は研修医あるいは病理医を志す専攻医に技術としての病理診断学を教授しなければならない。そのためにはこの「病理診断の作法」を系統的に習得しておくことが重要である。この作法を習得し、数多くの症例を経験し、さらに文献の中にある症例報告や当該疾患に関する新知見を報告した原著論文などを読むことによって、それぞれの診断学を構築し、後進の人たちに伝えて欲しい。
後半では病理診断学に関連する技術、細胞診について解説したほか、診療に必要な病理診断情報を適切に伝えるための報告書の作成の仕方についてまとめた。また、今日的には医療安全への貢献も病理診断学の中で大きなテーマであることから、病理部門の運営および精度管理に関する事項につい概説した。そして、臓器ごとあるいは疾患ごとに病理診断の過程には若干の違いがあることから、各論として実際の症例を用いて診断に至るまでの過程を示すことにした。
「外科病理診断学入門」と前版の「外科病理診断学」が単一著者によるものであったのに対して、本版では川崎医科大学、京都大学の病理診断部門においてともに教育を受け、作法を学び、思想を共有してきた病理医が分担して執筆を行った。これらの執筆者はそれぞれが専門領域を持ち、現在様々な施設,立場で活躍し、本邦の病理診断学を牽引している。もちろん、「病理診断学の作法」は必ずしも一つでなく、様々な考え方があってよい。しかし、本書が現在の日本における病理診断のあり方、水準を示す一里塚あるいはmilestoneの一つとなってくれれば望外の幸せである。
最後に、本書の出版にあたっては金芳堂の市井輝和氏の多大なるご支援をいただいた。多くの写真を新たに準備して入れ替え、レイアウトも新たにすることによって、前版と比較してより読みやすい体裁となったことは氏の熱意とこだわりの賜である。ここで心より御礼を申し上げたい。
平成30年10月
熊本大学病院病理診断科 三上芳喜
京都大学名誉教授 真鍋俊明
目次
序論
総論
1. 検体の肉眼観察と切り出し
2. 顕微鏡的観察の仕方
3. 病理組織形態のパターン認識
A. 炎症性病変のパターン
B. 腫瘍性病変でみられるパターン
C. 一般病理学におけるパターン分類と鑑別診断
D.炎症性皮膚疾患におけるパターン分類
E. 肺疾患におけるパターン分類
4. 病理診断の確定
5. 病理診断のための特殊検索
6. 遺伝子診断
7. 病理診断報告書
8. 術中迅速診断
9. バーチャルスライド技術と病理診断への応用
10 細胞診
11. 病理部門の運営
12. 精度管理
各論
1. 外科病理全般
2. 中枢神経系
3. 甲状腺
4. 乳腺
5. 骨・軟部腫瘍
6. 皮膚
7. 呼吸器
8. 造血器
9. 肝臓
10. 消化器
11. 泌尿器
12. 女性生殖器
執筆者一覧
執筆者一覧(執筆順)
三上芳喜 熊本大学医学部附属病院病理診断科教授
清水道生 博慈会記念総合病院・病理診断センター・センター長
泉 美貴 昭和大学医学部医学教育学講座教授
吉澤明彦 京都大学医学研究科附属総合解剖センター准教授
森谷卓也 川崎医科大学病理学教授
山田洋介 京都大学医学部附属病院病理診断科特定病院助教
桜井孝規 京都大学医学部附属病院病理診断科准教授
廣川満良 神甲会隈病院病理診断科科長
坂元和宏 大崎市民病院病理診断部長
畠 榮 神戸常盤大学保健科学部医療検査科教授
中島直樹 京都大学医学部附属病院病理診断科
倉田麻里代 京都大学医学部附属病院病理診断科
南口早智子 京都大学医学部附属病院病理診断科准教授