第15回 超高齢化社会における感染症のTips

【更新日:2020.10.20】

森川暢(市立奈良病院)

抗菌薬、感染症診療において、特に高齢者では教科書通りにいかないケースもあります。超高齢化時代の感染症診療について考えていきたいと思います。

症例(病棟の極意・実践前

89歳の女性が、尿路感染症で入院した。全身状態は良好だったが、施設からの入院であり、神経因性膀胱も認めたため、複雑性尿路感染症として尿道カテーテルを留置し、ピペラシリン・タゾバクタムを開始した。末梢ルート確保が困難であり、PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)を挿入した。しかし入院後せん妄となり、PICCの自己抜去のリスクが高かったため、体幹抑制、リスペリドン投与で経過を見た。解熱し感染症の経過は良好だったが、寝たきりとなり覚醒も低下した。偽膜性腸炎も発症し追加で治療した。経口摂取もほとんどできず、看取り前提で療養病院に転院になった。

【極意】

① 抗菌薬に慣れる

超高齢化社会では、発熱で来院する高齢者は非常に多いです。高齢者診療をすると必然的に、肺炎、尿路感染、蜂窩織炎などのコモンな感染症を診療する機会が多くなります。よって、頻用する抗菌薬は容量を暗記するぐらいに慣れ、使いこなすことが重要です。

『感染症プラチナマニュアル』1のような良質な感染症マニュアルを確認すれば最低限の治療の質を確保できるため、感染症に自信がないのなら読むことをお勧めします。

表1は、市中発症で重症ではない感染症の場合の、抗菌薬の使用例です。

表1.抗菌薬使用例(市中発症で重症ではない場合)

市中肺炎
誤嚥性肺炎
尿路感染
蜂窩織炎
肝胆道系感染
筋骨格系感染症 
セフトリアキソン[中等症ではアジスロマイシン(ジスロマック®)を併用]
アンピシリン/スルバクタム
セフメタゾール or セフトリアキソン
セファゾリン or アンピシリン/スルバクタム
アンピシリン/スルバクタム or セフメタゾール
セファゾリン

つまり、セフトリアキソン、アンピシリン/スルバクタム、セフメタゾール、セファゾリンの4種類さえ押さえれば、8〜9割程度の市中の感染症はカバーできてしまうのです。いかにこの4種類を使いこなすことが重要だとわかると思います。

このうち特に、アンピシリン/スルバクタムとセファゾリンに関しては、経口スイッチが可能であるということに大きな特徴があります。経口薬として対応するアモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン)およびセファレキシン・内服は、経口であっても吸収率が高いためです。なお、スルタミシリントシル酸塩(ユナシン®・内服)は吸収率が低いので、アモキシシリン(オーグメンチン)を使用します。

一方で、セフメタゾールとセフトリアキソンの経口スイッチに関しては、経口セフェムの吸収率が不安定であるため、そのままセフェムの内服に変更することができません。よって、早期に内服に切り替えざるを得ない状況が予測される場合(早期退院を強く希望しているなど)では、あえて経口へのスイッチがしやすいようにアンピシリン/スルバクタムやセファゾリンを選択することもあります。

② 広域抗菌薬は医療介護関連肺炎では全例必要?

『医療・介護関連診療肺炎ガイドライン』2では、入院を要する肺炎で、“過去90日以内に抗菌薬の投与がある場合”や“経管栄養が施行されている例”は耐性菌リスクがあり、抗緑膿菌作用のある広域抗菌薬が推奨されています。

しかし筆者は、医療介護関連肺炎で抗菌薬使用歴があっても、必ずしも抗緑膿菌作用のある抗菌薬を使用しません。

日本からの報告で、集中治療、人工呼吸器、または昇圧剤による治療を必要としない肺炎の症例において、広域抗菌薬を減らすプログラムを導入したところ、死亡率は上昇せず、むしろ医療介護関連肺炎では死亡率が低下する傾向が認められました3

実臨床の感覚としても、院内の肺炎や尿路感染で、抗菌薬使用歴があったとしても、軽症で“待てる状況”であればセフメタゾール、セフトリアキソン、アンピシリン/スルバクタムなどで経過を見ることが多いですし、それで予後が悪化する実感はありません。むしろ、広域抗菌薬による潜在的な偽膜性腸炎のリスクを考える必要があります。

ただし、“後がない場合”や“耐性菌の検出歴がある場合”では、ピペラシリン/タゾバクタムやメロペネムのような広域抗菌薬を使用せざるを得ないこともあります。ちなみに、“後がない場合”とは、集中治療や人工呼吸管理が必要で、バイタルが不安定な症例が挙げられます。

③ 広域抗菌薬は尿路感染症でも必要?

尿路感染症であっても、肺炎同様に、広域抗菌薬が必要な状況はそれほど多くないという実感があります。

もちろん、“後がない場合”や、結石性腎盂腎炎のように敗血症に至るリスクが極めて高い病態では、広域抗菌薬を使用します。

尿からESBL産生菌が検出されている場合も、教科書的にはメロペネムの使用が考慮されますが、重症ではないESBL産生菌感染症に対してセフメタゾールが効果的であることが示唆されています4。よって、ESBL産生菌が検出されていても、全身状態が良好でバイタルが安定していれば、セフメタゾールを使用します。

なおESBL産生菌は、入院歴や抗菌薬の使用歴がなくても検出される機会が増えてきているため、入院を要する尿路感染症ではセフメタゾールを使用することが好まれます。ただし、セフメタゾールでは緑膿菌や腸球菌のカバーができないため、本来は尿グラム染色で腸内細菌群であることを確認するほうが理想的です。

尿閉や尿路の形態異常などに伴う尿路感染症は「複雑性尿路感染症」と定義され、広域抗菌薬の使用が推奨されています。ただ実際には、複雑性尿路感染症であっても状態が安定していて、尿路の閉塞が尿道カテーテルなどで解除されている場合は、セフメタゾールやセフトリアキソンを開始し、慎重に経過をフォローすることもあります。

神経因性膀胱の原因が抗コリン薬などである場合は、抗コリン薬を中止し、α1阻害薬を導入するだけで速やかに尿道カテーテルを抜去できるケースもあります。

④ 血液培養の重要性

市中肺炎に血液培養は必要でしょうか?

『IDSAガイドライン』では、重症例、広域抗菌薬使用例、MRSAや緑膿菌の検出歴、過去90日以内の経静脈抗菌薬使用、もしくは入院歴がある症例では血液培養を推奨しますが、それ以外の市中肺炎では血液培養をルーチンで推奨しません5

しかし筆者は、入院するような症例では、肺炎であってもほぼ全例で血液培養を採取します。特に高齢者では全例、血液培養を行うようにしています。

なぜでしょうか?

まず、高齢者の肺炎の診断が難しいことが挙げられます。誤嚥性肺炎だと思ったら、尿路感染で嘔吐して肺炎像を認めたという症例をよく経験します。血液培養の予想外の結果から感染性心内膜炎が診断されることもあります。また、早期退院が望ましい症例において、血液培養陰性であれば比較的安全に退院できる目安にもなります(膿瘍や骨髄炎、化膿性関節炎などは例外)。

話は逸れますが、熱がなくてリウマチ性多発筋痛症のような全身の痛みがあるという状況が、感染性心内膜炎の症状であることも経験しました。その場合は血液培養陽性という結果によって全く治療方針が変わるのです。多少のCRP上昇では治療方針に与える影響は乏しいのですが、血液培養陽性はそれとは比較にならないくらい大きなインパクトを持ちます。

⑤ 経口抗菌薬について

入院は非日常的で、特に高齢者にとってはせん妄の強力な誘発因子です。さらに転倒、末梢静脈カテーテル感染、偽膜性腸炎などリスクを伴います。よって、入院が必要かは吟味しなければなりませんし、せん妄を発症したときには早期退院が必要になることがあります。しかし、感染症の治療期間が終わっておらず退院が難しいと判断されることもあります。このような困った状況で役に立つのが、経口抗菌薬です。

静注抗菌薬を経口抗菌薬に変更する基準としてCOMS criteria(表2)が知られています。

全身状態が安定し、経口摂取が可能で、バイタルが安定し、重篤な感染症や長期間の治療が必要な感染症でなければ、経口抗菌薬にスイッチが可能ということになります。

いざとなれば経口抗菌薬にスイッチできるか判断するという意味においても、前に述べた血液培養の有用性は理解できると思います。

表2. 経口抗菌薬に変更する基準、COMS criteria(文献66より作成)

C Clinical improvement observed

臨床的改善が観察された

O Oral route is not compromised

経口投与が可能(嘔吐、吸収不良障害、絶飲食、嚥下障害、意識障害、重度の下痢などで妨げられない)

M Markers showing trend towards normal

・24時間解熱を維持している(>36℃かつ<38℃)

・下記の2つ以上の項目を満たさない

1)脈拍数 > 90/分

2)呼吸数 > 20/分

3)血圧が不安定

4)白血球数 <4,000/μLまたは >12,000/μL

S Specific indication/deep seated infection requiring prolonged iv therapy

感染性心内膜炎や骨髄炎、膿胸など長期間の抗菌薬投与が必要な病態、髄膜炎、好中球減少症、重症皮膚軟部組織感染など、経口投与に変更することがリスクである感染症ではない

特に、前述したように、せん妄を発症し早期の退院が望ましい場合は、経口抗菌薬へのスイッチが唯一の解決策であることがあります。

理想を言えば、培養結果を確認してから経口抗菌薬にすることが安全です。

しかし、感受性がわかる前に経口抗菌薬にスイッチせざるを得ない状況もあります。あるいは培養が陰性の場合や培養を取れていなかった場合なども想定されます。そのような場合に備えて、経口吸収率が比較的良好な信頼できる経口抗菌薬を押さえておく必要があります(表3)。

表3.経口吸収率が比較的良好な経口抗菌薬

・ST合剤
・レボフロキサシン
・アモキシシリン/クラブラン酸
・セファレキシン
・ドキシサイクリン/ミノサイクリン
・アジスロマイシン
・メトロニダゾール

前述したように、アンピシリン/スルバクタムを使用していて経過が良いならば、感受性がわからなくてもアモキシシリン/クラブラン酸に変更が可能ですし、セファゾリンで経過が良いならばセファレキシン・内服に変更が可能です。

また、尿路感染症で点滴が使用できない状況にも関わらず、経口でしっかり治療をしたい場合は、ST合剤が非常に良い適応です。ST合剤は、内服薬であるにも関わらず経口吸収率が優れ、腎盂腎炎であっても外来で内服のみで治療が可能です。さらに高齢男性の尿路感染症では前立腺炎か腎盂腎炎か悩むことが多いです。その場合はあえて、前立腺炎に準じて前立腺移行性のよいST合剤内服を好んで使用することもあります。アジスロマイシンやミノサイクリンなどは単独で使用することは少ない傾向があり、市中肺炎において非定型肺炎をカバーする目的でアモキシシリン/クラブラン酸・内服と併用します。メトロニダゾールは軽症の偽膜性腸炎の治療薬として知られていますが、嫌気性菌の治療薬でもあります。よって、憩室炎などの腹腔内感染症においてST合剤、もしくはレボフロキサシンと併用することで、経口であっても充分な治療が可能になります。

これらの経口内服薬、特にST合剤とアモキシシリン/クラブラン酸に精通することが経口抗菌薬では重要です。

レボフロキサシンは乱用されている傾向があり、耐性化が進んでおり、さらに肺結核をマスクしてしまうデメリットもあるため、可能な限り温存するという姿勢が望ましいです。とはいえ、経口吸収率に優れ、耐性がなければ確実な治療効果が期待できるというのも事実です。よって、肺結核が否定的であり、使用するデメリットよりも確実に自宅で感染症治療を行うことができるというメリットが上回る場合で、ST合剤で代用できない場合においては、レボフロキサシンンの使用に踏み切ります。

なお、早期退院だけを目指すのであれば、外来でセフトリアキソンを1日1回投与する方法が確実です。毎日通院するデメリットはありますが、確実に治療が可能です。特別訪問看護指示書を使用すれば、在宅でも連日の点滴が可能になります。以下は、使用例になります。ご参考まで。

<使用例>

1.ST合剤(バクタ®配合錠) 4錠分2 朝夕食後

2.アモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン250RS 1錠+アモキシシリンカプセル250㎎ 1カプセル) 1日3回 毎食後

3.レボフロキサシン500~750mg 1日1回


※クレアチニンクリアランス<50では容量調整が必要。

※オーグメンチン配合錠に含まれるアモキシシリン250㎎、クラブラン酸125㎎とされています。しかし、最も適切な比率はアモキシシリン500㎎、クラブラン酸125㎎であり、日本のオーグメンチン配合錠はアモキシシリンの量が足りないという問題があります。よって、アモキシシリン250㎎をあえて足すことで、理想的な比率になります。なお、商品名がオーグメンチンとサワシリン®であるため、通称「オグサワ」と呼ばれています。

⑥ 皮下注射

高齢者で認知症があり指示が入らず、拘縮も強く末梢静脈確保が困難な状況で、かといって積極的な治療を行うフェーズではないため、中心静脈カテーテルやPICCが憚られる状況があります。重症例では適応になりくいですが、全身状態やバイタルが落ち着いている場合、皮下注射による抗菌薬投与を行うこともあります。

通常の抗菌薬投与法ではないので家族に説明する必要はありますが、確実にかつ少ない侵襲で輸液や抗菌薬投与を行うことができるメリットは大きいです。

ラクテック®やソルデム®3A、総合ビタミン剤などの輸液は問題なく使用できます。またβラクタム系抗菌薬は皮下注射が可能とされており、実際にセフトリアキソンやアンピシリン/スルバクタム、セフメタゾールに関しては皮下注射を、経験上、問題なく使用できます。それ以外の広域抗菌薬を使うのであればPICCなどが望ましいと思います。

とはいえ実際に、入院を要するような誤嚥性肺炎や尿路感染症に対し、皮下注射による抗菌薬治療のみで治療を完遂できることも経験しています。奥の手として知っておいて損はないでしょう。


■ 極意 ■
  • 早期退院を見据えて抗菌薬をチョイスすることもある
  • 医療介護関連肺炎でも必ずしも広域抗菌薬は必要ないかもしれない
  • 経口抗菌薬へのスイッチや皮下注射による抗菌薬投与などの選択肢を持っておく

症例(病棟の極意・実践後

89歳の女性が、尿路感染症で入院した。施設からの入院で神経因性膀胱も認め、複雑性尿路感染の定義を満たしていた。しかし全身状態良好であり、末梢ルート確保が困難であったため、皮下注射への変更も念頭に、セフトリアキソンを開始した。抗コリン薬を中止し、ウラピジル(エブランチル®)を導入し早期の尿道カテーテル抜去を目指した。末梢ルート確保が困難となったため、セフトリアキソンは皮下注射に変更した。入院後、せん妄を認めたが、クエチアピンの定期内服、尿道カテーテルの早期抜去、早期離床、リハビリ導入を行ったところ、尿閉の再燃は認めなかった。さらに、早期の退院がせん妄にとって望ましいことを家族に説明したところ、早期退院の方針となった。尿培養の結果はまだ出ていなかったが、血液培養は陰性であった。尿培養の結果が出るまでは外来でセフトリアキソンの点滴を行う方針とした。その後尿培養の結果が判明し、ST合剤の感受性があったため、ST合剤内服に変更した。施設に帰った後は、せん妄は改善し、食事摂取量も安定した。その後、計2週間の尿路感染症の治療を完遂した。

<+αアドバイス>
さらに全身状態が安定しているならば、アンピシリン/スルバクタムで治療を開始し、途中でオグサワ内服に変更するという方法もあるかもしれません。

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■著者略歴

森川暢(市立奈良病院)

2010年  兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科

■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論

■著書
総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢

■現在連載中
J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める


【参考文献】

  1. 岡秀昭. 感染症プラチナマニュアル2020. メディカルサイエンスインターナショナル. 2020.
  2. 日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会,編. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 社団法人日本呼吸器学会.2011.
  3. Kamata K, et al. Clinical evaluation of the need for carbapenems to treat community-acquired and healthcare-associated pneumonia. J Infect Chemother. 2015; 21(8): 596-603.
  4. Fukuchi T, et al. Cefmetazole for bacteremia caused by ESBL-producing enterobacteriaceae comparing with carbapenems. BMC Infect Dis. 2016; 16(1): 427.
  5. Metlay JP, et al. Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200(7): e45-e67.
  6. Guideline for the intravenous to oral switch of antibiotic therapy http://mikrobiologie.lf3.cuni.cz/nottces/Full%20Guidelines/iv%20switch%20policyupdate%20dec08_final.pdf