第10回 一歩進んだ輸液の考え方
森川暢(市立奈良病院)
輸液は漫然と行うべきではありません。そもそも何のために輸液を行うのでしょうか? 輸液の目的は以下の2つに分類されます。
1)血管内volumeを速やかに補正し、血圧を維持し、末梢臓器血流を保つこと
これは最もシンプルな目的だと思いますし、わかりやすいです。
救急外来や急変時の輸液は、原則として「細胞外液」のみで良いです。なお筆者は、高クロール性代謝性アシドーシスなどのリスクを鑑みて、生理食塩水よりもラクテック®を細胞外液の第1選択としています。ラクテック®のほうが急性腎不全は少ないという報告もあります1。
余談ですが、糖尿病ケトアシドーシス(DKA)であっても、ラクテック®は生理食塩水と少なくとも同等の効果があることが示唆されており、臨床的にはラクテック®のほうが使いやすいです2。
ただし、ラクテック®には微量ですがカルシウムやカリウムが含有されているため、高カリウム血症や高カルシウム血症では不向きであることは覚えておいてください。高カリウム血症になりやすい心肺停止状態などでは、生理食塩水のほうが良いです。
2)必要な電解質やエネルギーを補うための輸液
これは病棟で行われる輸液の目的として最も多いものではないでしょうか?
実は、この目的の輸液での誤解が最も多いように感じます。そもそも、食事が食べられているのであれば輸液は必要でしょうか? さらに、輸液の害についても自覚する必要があります。輸液自体が電解質異常を引き起こすこともありますし、せん妄のリスクにもなります。さらに血管内カテーテル感染症も忘れてはいけません。
この目的の輸液は「十分な食事や水分が経口で補充出来れば不要」なのです。
今回は病棟での輸液の主体である、2)の輸液について解説します。
症例(病棟の極意・実践前)
89歳の認知症がある女性が誤嚥性肺炎で入院した。絶飲食として、ユナシン® 3g+生理食塩水100mlを1日4回投与し、さらにソルデム®3A(2,000ml)/日を持続投与とした。入院後せん妄状態となり、リスペリドンを使用し継続した。また嚥下機能が低下していると判断し、念のため絶飲食と点滴を継続した。その後、呼吸状態が悪化し、心不全の診断となり、利尿薬を開始した。利尿薬開始後、意識レベル低下が見られ検査したところ、低ナトリウム血症を認めた。ビタミンB1も測定したところビタミンB1欠乏を認めた。そして、低栄養が進行し嚥下機能は著明に低下した。食事摂取は不可能と判断して、慢性期病院に転院になった。
【極意】
① 輸液を決める際のポイント
輸液製剤を決めるうえでの4つのポイントは以下の通りです。
A)水分量
B)ナトリウム
C)カリウム
D)栄養
A)水分量
水分量を決定するには、以下の法則を覚えておくと良いでしょう。
不感蒸泄 10ml/kg/日
最低尿量 10ml/kg/日
尿量に余裕 10ml/kg/日
発熱・仕事 10ml/kg/日
この法則に従えば、最低30ml/kg/日の水分量が必要であり、発熱があれば40ml/kg/日の水分量が必要となります。体重が60kgであれば1,800ml/日、つまり1日2ℓ程度の水分が必要になり、発熱があると2,400ml/day、つまり1日2.5ℓ程度の水分が必要になります。よって、発熱がある若年者では、基本のソルデム®3A(500ml)を4本/日をベースにしつつ細胞外液などを1本程度加えることは妥当であるということになります。
さらにわかりやすく考えると、そもそも「維持液とは何か」から考える必要があります。
維持液の代表格はソルデム®3Aだと思います。後述しますが1日に必要なカリウムの量は40mEqです。ソルデム®3A(500ml)には10mEqのカリウムが含有されています。よって、ソルデム®3Aで最低限のカリウムを維持するためには1日に2,000ml、つまり「ソルデム®3A(500ml)が4本/日」必要ということになります。
維持液とは「成人が絶飲食にした際に、500mlを1日4本投与すれば最低限の水分とミネラルを補給出来る輸液」であると考えるとわかりやすいです。
ただし高齢者では、500mlを1日4本の輸液では水分が過量になる傾向があるため、1日2〜3本で充分であることが経験されます。心不全があり小柄な高齢者では、1日1本でも充分でしょう。 また、抗菌薬の水分も計算に入れる必要があります。ユナシン®を生理食塩水100mlに溶かして8時間ごとに投与すると、それだけで300ml/日の水分量になります。脱水傾向がない高齢者であれば、ユナシン®を投与する分、維持液を1本/日ほど減量することも実際は良くあります。以上をまとめると以下になります。
絶飲食 4本/日
高齢者 2~3本/日
抗菌薬投与中 1本/日減らすことを考慮(特に頻回投与の抗菌薬)
心不全+高齢者 1本/日
B)ナトリウム
維持液のナトリウムに関してはどのように考えれば良いでしょうか?
入院中は医原性の低ナトリウム血症に注意すべきです。つまり漫然とした維持輸液(低張液)の投与による低ナトリウム血症です。
そもそも維持液に含まれるナトリウム濃度をご存じでしょうか? 正解はソルデム®3Aで35mEq/Lのナトリウム濃度となります。それでは、血液のナトリウム濃度の正常値はどうでしょうか?140mEq/L前後ですね。つまり、ソルデム®3Aはナトリウム濃度に関しては「維持液」ではなく、ナトリウム濃度を低下させる方向に働くことを覚えてください。
実際に高ナトリウム血症をソルデム®3Aで補正することもあるくらいです。むしろナトリウム濃度だけであれば、ラクテック®のほうが維持液に近いと言えるでしょう。低ナトリウム血症を予防するために等張液≒細胞外液を維持輸液として使用することを推奨する論文も出てきています4。小児からの報告が元になっているので、ナトリウム負荷による心不全のリスクが高い高齢者では、低ナトリウム血症に注意しながら維持液を使用する方針が妥当だと考えています。
ナトリウム濃度に関して例え話をします。ソルデム®3Aは「非常に薄味」の点滴であると考えてください。つまりナトリウム濃度の調整は、料理の塩味の調整と同じように考えれば良いのです。料理の味が薄いと思えば、濃い味にするために塩を加えますね。味見が採血に該当し、塩の調整が輸液だと思ってください。例えば高ナトリウム血症の輸液では5%ブドウ糖液を使用しますが、5%ブドウ糖液は基本的には塩分が全くない「真水」です。料理の味が濃すぎたら水を入れるのと同じです。
これらの輸液のナトリウム濃度を考えるうえで、「味見」に該当する採血によるナトリウム濃度の測定は極めて重要です。ざっくり言ってしまえば、血中ナトリウム濃度が高ければ維持液などの「薄味の」輸液を、ナトリウム濃度が低ければ生理食塩水やラクテック®のような「濃い味の」輸液を中心にメニューを組み立てます。
維持液として細胞外液を使用する場合は、糖分が足りないので、ラクテック®Gのような糖分入りの細胞外液が望ましいです。さらに後述するように、カリウムやビタミンを加えることも忘れてはいけません。ナトリウム濃度が正常であれば、ひとまず維持液でも良いです。特に、抗菌薬なども併用する場合は生理食塩水も使用しますので、ナトリウム濃度は低下しにくいため維持液で良いでしょう。
しかし、維持液を使用する場合は定期的な「味見」、つまり採血でのナトリウム濃度モニタリングが必須です。維持液は高ナトリウム血症の治療薬であることを忘れてはいけません。
C)カリウム
カリウムに関しては、腎機能障害がなければ、原則40mEq/日が必要量と覚えます。高齢者であれば20mEq/日でも充分です。低カリウム血症がある場合は通常40mEq/日を超える量が必要になります。
ソルデム®3A(500ml)にはカリウムが10mEq含有されています。一方でソルデム®1や生理食塩水にはカリウムは含まれていません。ラクテック®(500ml)にはごく微量の2mEqのカリウムが含有されているのみになります。
例えば、ナトリウム濃度及び細胞外液が低めの場合は、ソルデム®3Aではナトリウム濃度が低下してしまうため、ラクテック®にカリウムを混注します。逆に言えば、血中カリウム濃度が低い場合は、ラクテック®のみであれば、よりカリウムが低下してしまいます。
なお、末梢で投与可能なカリウムの濃度は40mEq/Lとされています。生理食塩水1本(500ml)にKCLを20mEqまで混注可能と覚えれば良いでしょう。多少カリウム濃度がオーバーしますが、ラクテック®1本(500ml)にKCLを20mEq混注することも、臨床的には問題なく可能です。ただ、カリウム濃度が濃くなると末梢静脈炎の原因となるため、原則としてはカリウム製剤の経口投与での補充が望ましいです。
余談ですが、低カリウム血症がある場合は、低マグネシウム血症も同時に評価します。低マグネシウム血症がある場合は、点滴でマグネシウムの補充をしなければ、カリウムも補正されません。
D)栄養
栄養に関して押さえるべきポイントとしては、絶飲食にする場合は点滴内にビタミンB1を混注することを忘れないでください。ビタミンB1は1週間程度で枯渇し、Wernicke脳症を発症してしまうリスクがあります。
特に、もともと経口摂取量が低下していた場合や明らかな低栄養、アルコール依存症ではビタミンB群の補充が必須です。なお、ビーフリード®にはビタミンB1が含有されていますので、混注の必要はありません。
また、すぐに経口摂取や経腸栄養が出来ない場合は、点滴によってエネルギーを投与することが重要になります。末梢輸液のみでは十分量のエネルギーは補充できないのですが、2g/kg/日の糖質で糖新生抑制効果(筋肉量低下予防)が期待できます5。カロリーに換算すると体重50㎏で計算すれば400kcal/日になります。とはいえ1日に食事で摂取するエネルギーが1,400kcal/日程度であることを考えても、400kcal/日でも少ないことは明らかです。ソルデム®3A (500ml)には20gの糖が含まれています。つまり80kcalしかエネルギーがないということになります。ソルデム®3A(500ml)を1日3本投与したとしても240kcal/日程度にしかなりません。
つまり維持液は、エネルギーに関しても維持は出来ないと考えることが妥当です。このような少量のエネルギーのみで絶飲食としていると、低栄養が進行し、筋肉量が減少します。筋肉量の減少を「サルコペニア」と呼びますが、このような過少なエネルギーと絶飲食によって引き起こされるサルコペニアは、医原性のサルコペニアと呼んでも差し支えないものです。
なお、ソルデム®3AGはソルデム®3Aにブドウ糖を追加した製剤で、500ml 1本あたり37.5g、つまり150kcalのエネルギー量となるため、3本/日であれば450kcal/日と最低限のエネルギーが補充できます。ビーフリード®のような糖質とアミノ酸を含有した製剤では500ml 1本あたり210kcalのエネルギー量となるため、3本/日で620kcalとなり、末梢静脈栄養でも比較的充分な栄養を補給できます。
エネルギーの原則は経口摂取ですが、経口摂取が安定するまでは末梢静脈栄養を行うことは妥当だと考えています。ただしビーフリード®のようなアミノ酸製剤は末梢静脈炎のリスクがあり、特に末梢点滴が確保しにくい症例では使いにくいです。さらにbacillus cereus菌血症のリスクがあるため、経口摂取が安定次第中止を検討します6。
② 輸液速度と持続点滴
維持輸液の速度は「何時間かけて輸液を入れるか」で考えれば良いと思います。
ここで注意すべきは、可能な範囲で夜間の持続点滴を避けるということです。例えば、漫然と24時間持続で維持液を投与してはいないでしょうか?特に認知症のある高齢者では、夜間の持続点滴は自己抜去のリスクになります。よって、心不全がある場合や血圧が不安定などの事情がない限り、高齢者では維持液を日中に入れ切るほうが良いことが多いです。
また、誤嚥性肺炎で入院した高齢者では、抗菌薬も投与するため、維持液は500mlを1日2本でも充分なことが多いです。看護師の勤務体制を考えると勤務の交代時間帯の点滴交換も避けたいです。よって、午前10時から維持液1本を3時間程度で入れ切ると、16時には点滴が終わるので、看護師も楽ですし、せん妄リスク低減にも繋がります。
③ 維持液の離脱
維持輸液を継続することのデメリットを考えていきましょう。
前述したように、維持液の投与は低ナトリウム血症のリスクです。小児の報告ですが、ソルデム®3Aよりも塩分濃度が高いhalf saline(77mEq/L)であっても、低ナトリウム血症のリスクがあると報告されています7。よって、維持液を継続するということは、必然的に電解質異常のリスクがあります。
さらに、せん妄、末梢静脈カテーテル感染、転倒などのリスクもあります。食事摂取時は維持液を出来るだけ使用しない、もしくは少な目にしたほうが無難です。また食事量が少ないのであれば、食欲低下の原因を精査しつつ、栄養科に相談し、補助食品を付加するなどの工夫がむしろ優先されます。出来るだけ早く食事量を安定させ、維持輸液を中止することを目標とすべきです。
では、維持輸液はどのように中止すれば良いでしょうか? ポイントは食事摂取量です。食事量がどれだけ安定しているかで維持液の量を調整します。
例えば、食事を全量食べていて脱水もなければ、維持液は必要でしょうか?当然、不要です。高齢者であれば維持液500ml 3本/日をベースにしつつ、食事量に応じて点滴の量を調整するイメージを持つと良いでしょう。
過量な輸液は心不全の原因となりますし、過少な輸液は脱水の原因となりますが、その際の目安は食事量なのです。以下、食事量と維持液の関係についてざっくりと記載します。食事量を常に熱型表でモニタリングし、漫然と輸液を行うことを避けるように意識しましょう。
食事を7割~全量摂取→ 維持液は不要
食事を3~6割摂取→ 維持液を1本追加
食事を1~2割摂取→ 維持液を2本追加
全く食事を食べない→ 維持液を3本追加
- 点滴では水分量、ナトリウム、カリウム、栄養を意識する
- 点滴の目的を常に意識する
- 漫然と点滴を投与することはご法度である
症例(病棟の極意・実践後)
89歳の認知症がある女性が誤嚥性肺炎で入院した。当初は絶飲食としてユナシン®を1日4回投与した。心不全およびせん妄のリスクがあるため、維持液は10時から16時までで投与し切る方針とした。低栄養のリスクがあるため、ビーフリード®1,000ml/日を選択した。入院後、軽度のせん妄を認めたが、すぐに改善した。早期の経口摂取を目指し、食事量が安定次第、維持液も段階的に減量した。その後、食事摂取が安定したため維持液は中止した。電解質異常や心不全は発症せずに経過した。
■著者略歴
森川暢(市立奈良病院)
2010年 兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科
■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論
■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢
■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める
【参考文献】
- Yunos NM, et al. Association Between a Chloride-Liberal vs Chloride-Restrictive Intravenous Fluid Administration Strategy and Kidney Injury in Critically Ill Adults. JAMA. 2012 Oct 17; 308(15): 1566-1572.
- D G Van Zyl, et al. Fluid Management in diabetic-acidosis–Ringer’s Lactate Versus Normal Saline: A Randomized Controlled Trial. QJM. 2012 Apr; 105(4): 337-343.
- 上田剛士, 他. ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして. 医学書院. 2014. pp55-57.
※診断に関するエビデンスがこれでもかと満載のリファレンスです。治療、栄養や輸液に関する実践的な内容も掲載されていています。 - Moritz ML, et al. Maintenance Intravenous Fluids in Acutely Ill Patients. N Engl J Med. 2015 Oct; 373(14): 1350-1360.
- D Löhlein. Protein-sparing Effect of Various Types of Peripheral Parenteral Nutrition. Z Ernahrungswiss. 1981 Jun; 20(2): 81-95.
- Tomoko Sakihama, et al. Use of Peripheral Parenteral Nutrition Solutions as a Risk Factor for Bacillus Cereus Peripheral Venous Catheter-Associated Bloodstream Infection at a Japanese Tertiary Care Hospital: A Case-Control Study. Jpn J Infect Dis. 2016 Nov 22; 69(6): 531-533.
- McNab S, et al. 140 mmol/L of sodium versus 77 mmol/L of sodium in maintenance intravenous fluid therapy for children in hospital (PIMS): a randomised controlled double-blind trial. Lancet. 2015 Mar 28; 385(9974): 1190-1197.