眠りのメェ~探偵 睡眠薬の使い方がよくわかる

    定価 3,300円(本体 3,000円+税10%)
    松井健太郎
    国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室
    B6判変型・157頁
    ISBN978-4-7653-1974-4
    2024年01月 刊行
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    実践的な処方内容も含めた睡眠薬の理解が進む!

    内容紹介

    「眠れない」と訴える患者さんに対し、「とりあえず何かの薬を飲んでおいてもらおう……」と思ったことはありませんか?

    とりあえず、というのは、医療者にとっても患者さんにとってもよくありません。薬剤選択時には、ある程度根拠があって、皆が納得できる治療選択を行いたいものです。

    とはいっても、睡眠薬を2剤以上使うのはどうなの? 適応外処方のメリットとデメリットは? このような症例には一体みんなどう対応しているの? と疑問はたくさんあります。

    不眠症の薬物療法についていろいろな情報が飛び交うあまり、そうして結局いつも通りの処方としていませんか?

    本書では、なんとなく処方している実情から脱却できるよう、実臨床で使える手法、治療選択における薬剤ごとの特徴などを羊の名探偵とともに解説しました。

    本書を読んで、明日から自信をもって睡眠薬を処方してみませんか?

    序文

    「夜眠れなくても死なないから、気にしないで!」

    これは病棟回診の際、「昨日の夜はよく眠れなくて……」と訴える患者さんに対し、私の指導医が明るく言い放った一言である。

    当時の私はほやほやピヨピヨの初期研修医で、かの指導医は明るくさわやか、バリバリ仕事ができるかっこいい先輩であった。先ほどの発言もなんだか妙に説得力があり、言われた患者さんも「そういうものか」みたいな顔をしてそれ以上何も言わなかった。ポンコツ研修医の私は隣で「はえ~」なんて思っていたものである。

    今考えるとだいぶムチャクチャ言うなあと思う。あれで患者さんが表向き納得していたのは、指導医のキャラクター、免罪符としての「忙しさ」、入院中というイレギュラーな環境、など様々な理由があってのことだろう。患者さんとしてはもっと話を聞いてもらいたかったけれども、一刀両断されて諦めてしまったかもしれない。

    寝付きが悪い、途中で何度も目覚めてしまう、といった睡眠の悩みは、5人に1人ほどが抱えている。日中の機能障害も含めた、不眠症の診断を満たすものも、10人に1人ほどの割合であると考えられている[1]。私のように睡眠障害を専門としていなくても、睡眠の悩みを訴える患者さんにはしばしば出くわすはずである。睡眠の問題を抱えている人たちの悩みは深い。「夜眠れなくても死なないから、気にしないで!」と言い放っていては、激怒される方も少なからずいるだろう。逆に、ある程度根拠をもった対応ができると、患者さんにも喜んでもらえるはずである。

    さて、不眠症の薬物療法について勉強しようと思い立ち、治療ガイドラインや総説などに目を通すと、どれも多方面に配慮された素晴らしいものばかりではあるが、同時に、実践的な処方内容、対処法などにはそこまで踏み込んでいないものが多い。「〇〇については結論が出ていない」みたいな記載に対し「ハァ? 白黒つけろや!」と憤慨した経験もある。しかし、これは執筆側に回るとわかる。ガイドラインの作成、総説の執筆において、十分なエビデンスのないものに対し、良し悪しの評価をするのは適切ではないのである。これは建付け上、仕方のないことだ。

    本書は私が書きたい放題書いたものなので、ある程度そのような制約からはフリーである。不眠症の薬物療法について、とにかく「実臨床で使える手法」にこだわり、自分の頭の中にあるものを切り出してみた。とはいえ、長年叩き込まれたお師匠さまからの教えのせいか、根拠のないことを書くのは生理的に嫌になってしまった。できるだけ引用文献をつけるよう心がけたし、十分なエビデンスのないものに対しては、私の主観であることがわかるように書いたつもりである。

    それでもお茶を濁している箇所は多少、あるかもしれない。「ハァ? 白黒つけろや!」と思われた方はぜひ、Amazonか何かのレビューにご記載いただけたらと思う。この本が売れに売れ、改訂版を出すことができた暁には、ぜひ参考にさせていただきたい(そうなるといいな)。

    2023年11月
    松井健太郎


    参考文献
    [1]Buysse DJ. Insomnia. JAMA. 2013; 309: 706-716.

    目次

    はじめに

    Part1 眠れないから睡眠薬?

    睡眠薬の歴史
    どうしてテキトーな処方ではだめなのか?
    参考文献

    Part2 総論:睡眠障害の考え方

    睡眠障害≠不眠症
    不眠症の診断基準
    不眠の3Pモデル
    不眠症と紛らわしい! 概日リズム睡眠・覚醒障害
    若年者に多い睡眠・覚醒相後退障害
    高齢者に典型的な不眠のパターン
    参考文献

    Part3 処方の決め方

    寝付きを良くしたいのか、途中で起きてしまわないようにしたいのか
    「睡眠薬を処方しない」選択肢
    睡眠衛生指導
    解説のみかた

    1.オレキシン受容体拮抗薬
    - スボレキサント(ベルソムラ®)
    - レンボレキサント(デエビゴ®)

    2.GABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)
    - ゾルピデム(マイスリー®)
    ≫ column 睡眠関連摂食障害
    - エスゾピクロン(ルネスタ®)
    - ゾピクロン(アモバン®)
    - ブロチゾラム(レンドルミン®)
    - エチゾラム(デパス®)
    - ロルメタゼパム(エバミール®、ロラメット®)
    - リルマザホン(リスミー®)
    - クアゼパム(ドラール®)
    - トリアゾラム(ハルシオン®)
    - ニトラゼパム(ベンザリン®)
    - フルニトラゼパム(サイレース®)

    3.メラトニン受容体作動薬
    - ラメルテオン(ロゼレム®)
    ≫ column 海外への渡航と睡眠薬
    - メラトニン(メラトベル®)

    4.その他
    - 漢方薬
    - ジフェンヒドラミン(ドリエル®など)
    参考文献

    Part4 睡眠薬処方の「型」

    睡眠薬処方の前に
    - CASE 1 毎日のように寝付きが悪い
    - CASE 2 寝ている途中で目が覚めてしまって再度眠れない
    - CASE 3 “不眠時”頓服薬
    - CASE 4 睡眠薬の使用が不安な方
    参考文献

    Part5 マニュアル編(Q&A)

    Q 長時間臥床が是正できない高齢者の不眠症状に対してはどうしたらいい?
    Q 勤労世代の不眠症状で注意すべきことは?
    Q どの薬剤を使用しても「毎日3時間しか寝られないです」との訴えが続くときにはどうすべき?
    Q 睡眠薬を2剤もしくはそれ以上使うのはどうなの?
    Q 夜寝付けないと同時に、朝起きれない患者の対応はどうすべき?
    Q 閉塞性睡眠時無呼吸に不眠が併存した場合はどうする?
    Q レストレスレッグス症候群の薬物療法は?
    Q お酒が大好きでどうしてもやめられない人の不眠症状に対してどうすべき?
    Q 薬剤性(例:ステロイド、βブロッカー)の不眠症状に対してどうすべき?
    Q 認知症患者の不眠症状に対してどうすべき?
    Q 経口摂取が難しい患者に対する睡眠薬使用のコツは?
    Q CYP3Aを強く阻害する薬剤を使用しているときにはどうすべき?
    参考文献

    Part6 睡眠薬をどうやめる?

    前提:睡眠薬を減量・中止できる状態にありますか?
    従来のスタンダードな中止法:漸減法と隔日法
    近年の睡眠薬は反跳性不眠が出にくい!
    参考文献

    Part7 オフレコ! 適応外処方を出した主治医が考えていそうなこと

    適応外処方のメリット・デメリット
    - 事例1 鎮静系抗うつ薬(トラゾドン・ミアンセリン)
    - 事例2 低用量のミルタザピン
    - 事例3 クエチアピン
    - 事例4 クロルプロマジン
    - 事例5 睡眠・覚醒相後退障害に対する低用量アリピプラゾール
    - 事例6 クロナゼパム
    - 事例7 プレガバリン
    - 事例8 ガバペンチン
    - 事例9 クロニジン
    おわりに:適応外処方全般に対する構え
    参考文献

    執筆者一覧

    ■著
    松井健太郎 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室

    トピックス