誤嚥性肺炎 50の疑問に答えます

    定価 3,300円(本体 3,000円+税10%)
    編著吉松由貴
    飯塚病院呼吸器内科
    山入和志
    大阪市立総合医療センター呼吸器内科
    A5判・216頁
    ISBN978-4-7653-1885-3
    2021年12月 刊行
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    誤解されやすい誤嚥性肺炎、現場での経験からみんなの疑問にお答えします!

    内容紹介

    誤嚥性肺炎の診療は奥深く、ただ漫然と抗菌薬治療を行うことは決してベストとはいえません。誤嚥性肺炎をどう診断するか、どうすれば緩和できるのか、誤嚥性肺炎の入院患者さんや退院を迎える患者さんへはどう接するのがよいか、終末期で医療従事者ができることは何かなど、それぞれのステージによってすべきこと、してはいけないこと、工夫できることがたくさんあります。いつも主治医だけで判断するのではなく、患者さんや患者さんのご家族の思いも重要です。そして、他職種との連携も必須です。長年誤嚥性肺炎の患者さんを診療してきた著者らが、日々実際の現場でどのようなことを考え、どう対応しているかなどを丁寧に解説しました。

    序文

    推薦のことば

    もともと緩和ケアを目指していた呼吸器内科医である吉松医師と山入医師の雄編です。淀川キリスト教病院の元同僚であり、全人的医療を当たり前のものとして血肉にしてきた二人です。中を歩くだけで全体からハートウォーミングなオーラが出ている病院で切磋琢磨した二人の高齢者医療に対する熱意はただならぬものを感じます。

    まったくの余談ですが、私は医学生の頃、淀川キリスト教病院に憧れていて、同病院のマッチングの筆記試験と面接を受けたことがあります。あまりに人気だったため(応募は200人を超えていたと思う)、まったくマッチ上位に入れなかった記憶があります。

    今後、市中肺炎よりも遭遇する頻度が高い疾患が誤嚥性肺炎です。高齢化社会を迎えるにあたり、どの診療科も避けては通れません。20年前の医師国家試験なら「絶食」、「アンピシリン/スルバクタム」を選べば正解がもらえましたが、今の医療現場では違います。絶食、安静臥床、抗菌薬というモノトーンな誤嚥性肺炎診療は前時代的となったのです。
    「医師が指示しても、リスクが高いから他職種は食べさせたくないという」、「絶食にしないと、再度誤嚥したときにインシデントになってしまう」、「老衰だからあまり無理させたくない」など、医療従事者側にはいろいろな思いがあるでしょう。私も「自分の家族ならこうしたいけど」と本音を持っていても、医療安全的な側面を考慮して対応しなければならない病院側の事情もよくわかります。落としどころに迷って「絶食、内服時のみ飲水可」という指示を出している医師もいるかもしれません。しかし、本書ではその矛盾点を優しく指摘しています。私も、誤嚥性肺炎の患者さんから幾度となく「死んでもいいから食べたい」と言われたことがありますが、呼吸器内科医になったばかりの頃「それはだめです」と言ってしまった対応を、今でも悔やんでいます。

    誤嚥性肺炎は、個々の医療従事者だけでなく病院全体のポリシーが問われる疾患です。多職種が集まって、協力してゴールに向かって歩き出さねばいけません。ただ肺炎を治療するだけでなく、退院後の生活を考え何度も話し合わなければ、解決できない問題がたくさんあります。

    私にとって、誤嚥性肺炎とは、どちらかといえば医療者が苦しい思いをして対峙する疾患だと思っていました。しかし、著者の二人は決して悩み苦しみ抜く疾患として捉えておらず、患者さんに何ができるだろうかという突破口を見つけることをまるで楽しみにしているかのような、前向きな姿勢です。

    たぶんそれは、「何を以て誤嚥性肺炎の治療と成すか」について、見えている景色が私たちと少し違うからかもしれません。であれば、一度本書で視点を変えてみませんか。

    国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科
    倉原優


    はじめに

    誤嚥性肺炎の診療は、単調なようで、奥深い世界です。鑑別診断や抗菌薬治療はもちろん、栄養面への介入、体調の変化への対応、他職種との協力体制、家族背景や退院後の生活への配慮、終末期医療……。医師として長く臨床をしていくうえで、大切なことがたくさん詰まっています。これほどの全人医療を教わる機会はなかなかありません。若手の頃に患者さんに向き合って真摯に診療することで、専門分野に進んでからも必ず役に立つものです。

    私たちは卒後まだ何もわからないときに、淀川キリスト教病院の呼吸器内科で、研修を始めさせていただきました。それはそれはあたたかい先生方に、医師としての在り方を昼夜、教わりました。誤嚥性肺炎の患者さんを主治医として受け持ち、全人医療を目の当たりにしました。研修後も呼吸器内科を専攻し、患者さんのために身を粉にして働く先生方の仲間に入れていただき、育てていただきました。思いやりあふれる看護師に、患者さんに尽くす心を教わりました。各療法士や栄養士、薬剤師、社会福祉士にいつも助けられ、広い視野をもって、導いていただいていました。

    当時は呼吸器内科を学んだのちに緩和ケア医になると偶然にも同じ目標を抱いていた二人が、今も呼吸器内科医の道を歩んでいるのは、決して偶然には思えません。初めの5年間で教わったことを基盤に、嚥下やリハビリを学んできた吉松と、感染症領域で修練を積んだ山入が力を合わせ、一冊の本となりました。誤嚥性肺炎の診療で抱く疑問を、少しでも解決へ導く道しるべとなることを願っております。

    2021年11月
    飯塚病院呼吸器内科
    吉松由貴
    大阪市立総合医療センター呼吸器内科
    山入和志

    目次

    推薦のことば
    はじめに

    第1章 誤嚥性肺炎かなと思ったら(外来編)

    Q1 そもそも誤嚥性肺炎って?
    誤嚥性肺炎の定義はなぜ難しい
    誤嚥性肺炎は、区別しなければならないのか
    病名ではなく、患者さんをみて診療する

    Q2 誤嚥性肺炎と誤嚥性肺臓炎の区別は?
    発症する背景の違い
    誤嚥性肺臓炎では抗菌薬は不要?

    Q3 胸部CTは必要?
    胸部CT検査を行う目的を明確に
    誤嚥性肺炎と紛らわしい疾患を見逃さないように

    Q4 鑑別疾患は?
    咳や熱を繰り返す疾患
    呼吸不全をきたす疾患
    肺に異常陰影をきたす疾患
    発熱をきたし、誤嚥性肺炎の治療で改善してしまう疾患

    Q5 外来での原因精査は必要?
    緊急性の高い病態を見逃さないために
    嘔吐があった場合にはその原因検索を
    お薬手帳を確認し、薬の調整歴を聴取

    Q6 グラム染色は必要?
    喀痰グラム染色の特性を理解しよう
    誤嚥性肺炎におけるグラム染色の意義
    グラム染色は簡便だが修練も欠かせない

    Q7 血液培養や尿中抗原検査は必要?
    誤嚥性肺炎で血液培養は必要ない?
    尿中抗原検査は低侵襲

    Q8 入院適応は?
    入院の判断に用いられる客観的指標とその限界
    入院しなければ、できないこと
    すぐに決断することが難しいとき

    Q9 抗菌薬選択のポイントは?
    嫌気性菌カバーは必要?
    広域抗菌薬は必要?

    Q10 外来ではどのような面談が必要?
    外来での病状説明でできる配慮
    心肺停止時の対応

    第2章 入院で受け持つことになったら(病棟編)

    Q11 病歴聴取や身体診察で、気を付けることは?
    多面的に情報を集めよう
    狙いを定めた身体診察をしよう

    Q12 誤嚥の原因の調べ方は?
    誤嚥性肺炎の原因疾患を、見逃さないために
    臓器別に考える誤嚥性肺炎の原因
    医原性の誤嚥性肺炎
    もれなく評価するために:チェックリストの活用

    Q13 原因疾患に応じた対応は?
    神経疾患は、先行期に注目
    消化器疾患には、生活指導を
    呼吸器疾患では、呼吸を整える
    サルコペニアには、栄養とリハビリを

    Q14 はじめの指示の出し方は?
    安静度:離床も治療の一つ
    体位ドレナージ:褥瘡予防と混同しない
    酸素化:高ければよいわけではない
    口腔ケア:初日から少しずつ、保湿もしっかりと

    Q15 はじめは絶食?
    治療であり訓練でもある、経口摂取の継続
    それでも、どうしても絶食が必要なとき
    絶食が不要な、ほとんどの症例
    入院時の習慣にしておきたい、簡単な嚥下評価

    Q16 薬だけ続けていい?
    「絶食、内服時のみ飲水可」の指示に秘めた矛盾
    それでもなお、必要な内服薬であるか
    それでもなお、絶食が必要な嚥下機能であるか
    「とろみ水で内服」や「粉砕」の落とし穴
    安全に服薬してもらうために:飲み方の工夫
    安全に服薬してもらうために:処方の工夫

    Q17 口腔ケアのコツは?
    口腔ケアは、なぜ嫌がられるのか
    声かけと姿勢作りから始まる口腔ケア
    保湿に始まり、保湿に終わる
    開口してくれないとき
    苦痛になりやすいところを抑えた対策
    忘れてはいけない、義歯のケア
    困ったときは、早めに相談を

    Q18 吸引の目安や、排痰のコツは?
    吸引は第一選択ではなく、最後の手段
    痰を喀出させる4つの要素と、それぞれへの介入
    どうしても吸引が必要なとき
    吸引の、よくある誤解

    Q19 呼吸リハビリテーションは、いつ行う?
    リハビリを依頼する前に:心構え
    呼吸理学療法:運動療法を行える呼吸状態に
    早期離床と運動療法:元気に帰るために
    訓練効果を最大化するために:他職種にできること

    Q20 不穏時の鎮静や抑制は、やむを得ない?
    なぜ不穏なのか? 原因を探る努力を
    鎮静や抑制は、なぜよくないのか
    鎮静や抑制がどうしても必要なとき

    Q21 STの介入は、いつ依頼する?
    STに依頼するための、前提条件
    STに何を相談したいかを明確に
    嚥下評価や嚥下食の必要性を、患者さん本人に伝えよう
    患者さんやご家族の意向を共有しよう
    嚥下の専門家:摂食・嚥下障害看護認定看護師
    日常生活を訓練に

    Q22 食上げはいつ、どのようにする?
    はじめの食形態
    食事をただみるだけではない、観察のポイント
    食形態の段階的アップの基準
    食形態の段階的アップの方法
    食形態を上げ下げする目安

    Q23 むせない誤嚥は、どうみつける?
    「むせる」の意味すること
    「むせない誤嚥」とは
    「むせない誤嚥」のみつけ方
    「むせない誤嚥」の防ぎ方
    誤嚥をしても、肺炎にならないように

    Q24 嚥下内視鏡や嚥下造影はいつ行う?
    誤嚥の証明で終わらない:診断的評価と治療的評価
    検査はあくまでも検査:実生活に即した評価を
    嚥下内視鏡
    嚥下造影
    嚥下エコー

    Q25 胃管やCVはいつ使う?
    栄養療法は治療の一部
    現状と目標に応じて、必要な栄養摂取量を判断する
    末梢点滴で、栄養状態を維持するには
    経口摂取を1日も早く、少しでも多く取り入れよう
    3日間食べられそうにないときは、胃管を入れる
    3日間消化管を使えそうにないときは、CVカテーテルを入れる
    苦痛をきたしにくい胃管の入れ方
    合併症を起こしにくい胃管の管理
    メリハリのある使用を

    Q26 気管切開があっても食べられる?
    気管カニューレやカフは、気道分泌物を増やす
    気管カニューレは、嚥下にも不利に働く
    気になるカフ圧の調整
    経口摂取に向けて、気管切開のウィーニングを
    気管切開があっても行える嚥下訓練
    声が出る喜びを取り戻す「送気訓練」

    Q27 食べてくれないとき、どうする?
    食欲低下をきたす疾患を見逃していないか
    食べられる口になっているか
    食欲をそそる食事であるか
    食欲を落とさない環境であるか
    食べない患者さんのゆくえ

    Q28 とろみを嫌がられるとき、どうする?
    まずは、とろみの必要性を再評価するところから
    段階的にとろみをなくす方法:LIP
    とろみを飲みやすくする工夫
    とろみを使わずに、安全に飲水する方法
    患者さんの価値観

    Q29 培養での検出菌の評価は?
    検出菌と原因菌の違い
    菌種による違い
    血液培養陽性の場合は感染源を再考する

    Q30 治療効果判定はいつ、どのようにする?
    臓器特異的な指標を意識する

    Q31 熱が再燃したら、広域抗菌薬に変更する?
    発熱の原因を突き詰める
    どの抗菌薬に変更する?

    Q32 また誤嚥してしまったので、絶食?
    誤嚥をした原因をとことん探る
    誤嚥から肺炎に至った原因を探る
    絶食以外の選択肢を、多職種で考える
    それでも絶食が必要なとき

    Q33 誤嚥性肺炎を予防する薬は?
    薬での誤嚥性肺炎の予防を考える前に
    嚥下機能を改善させうる薬
    上部消化管逆流を改善させる薬
    気道感染を予防する薬

    Q34 胃瘻やCVポート、誤嚥防止術の適応は?
    まず知っておきたいガイドラインの推奨
    胃瘻の考え方
    中心静脈ポートの考え方
    誤嚥防止術の考え方
    大前提は本人の意思

    Q35 入院中の面談で気を付けることは?
    段階を踏んで
    退院後の生き方を考える

    Q36 算定できる加算は?
    摂食機能療法
    摂食嚥下支援加算
    周術期等口腔機能管理料

    第3章 退院に向けて(退院支援・地域連携編)

    Q37 退院か、転院か?
    転院先をもっと知ろう
    退院先をもっと知ろう
    最も大切にしたい、患者さんの希望
    ないがしろにしたくない、ご家族の意向

    Q38 転院が不安といわれたら?
    急性期病院としての役割を果たす
    不安の原因を探る

    Q39 診療情報提供書の書き方は?
    苦労した事柄が、相手の求める情報とは限らない
    書き忘れやすい、大切なこと
    誤嚥性肺炎の診療情報提供書チェックリスト

    Q40 退院時の食事指導は?
    指導内容には優先順位をつけて、柔軟に組み立てる
    入院中の指導のひと工夫
    退院後につながっていく指導の工夫
    市販品の活用

    Q41 受診の目安や、地域との連携は?
    訪問看護師を、大いに頼ろう
    不調時の対応を決めておこう
    緊急性の高い症状を伝えよう
    慢性期疾患の視点を共有しよう
    日誌やアクションプラン、嚥下パスポートの活用

    Q42 誤嚥しやすい患者さんを外来でみるには?
    肺炎を予防し、早めに治療するために
    他職種の視点を役立てる
    高齢者を地域でみる:MMIの活用

    Q43 家でもできる評価や訓練は?
    食事場面の観察は、立派な嚥下評価
    生活を訓練にしよう

    Q44 肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンの効果は?
    肺炎球菌ワクチン
    インフルエンザワクチン

    第4章 どうしてもよくならないとき(緩和ケア編)

    Q45 嚥下機能がよくなるかどうかの見極めは?
    嚥下機能が、なぜ悪いのか
    嚥下機能の、どこが悪いのか
    期間を決めて、客観的に評価する
    患者さんの意欲や、地域の医療資源も重要

    Q46 ご家族に納得してもらうには?
    試行錯誤の道のりを、ともに歩む
    食べられない理由が、食欲や食物認知にあるとき
    食べられない理由が、誤嚥のとき
    ご家族の真意に、耳を澄ませよう

    Q47 「死んでもいいから食べたい」といわれたら?
    まず患者さんの真意を知るところから
    経口摂取をすることが真意であるならば

    Q48 生命予後の予測方法は?
    「今回、退院できますか」
    「退院後、どれぐらい生きられますか」

    Q49 痰絡みなど、つらい症状を緩和するには?
    肺炎の症状緩和を難しくさせるもの
    苦痛をかえって増やさないように
    咳や痰絡みを和らげるには
    呼吸困難を和らげるには

    Q50 ご家族のケアは?
    大切な人が誤嚥性肺炎になるということ
    ケアをするチームの一員としてのご家族を支える
    ケアをされる側としてのご家族を支える

    ひとやすみ
    食事指導を守れず誤嚥したと思ったら……
    グラム染色と感染対策
    経口第3世代セフェム系抗菌薬は不要?
    大人しい患者さんだなと思っていたら……
    感染症診療と誤嚥性肺炎
    J-Oslerと誤嚥性肺炎
    簡単で美味しい栄養剤の工夫
    地域へバトンをつなぐ、退院前ST訪問
    呼吸器内科の愛車「えんげ号」
    主治医からみた、誤嚥性肺炎
    「ビールを飲みたい」といわれたら
    誤嚥性肺炎から学ぶ緩和ケア
    呼吸器内科に進んだ道

    プロフィール

    執筆者一覧

    ■編著
    吉松由貴   飯塚病院呼吸器内科

    ■著
    山入和志   大阪市立総合医療センター呼吸器内科

    トピックス

    ■2021-11-29
    noteでの連載「編集後記」にて、本書に関する記事を公開いたしました。

    「編集後記」とは、新刊・好評書を中心に、金芳堂 編集部が本の概要と見どころ、特長、裏話、制作秘話をご紹介する連載企画です。また、本書の一部をサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしております。

    著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

    編集後記『誤嚥性肺炎 50の疑問に答えます』|株式会社 金芳堂|note
    https://note.com/kinpodo/n/n55ca1239161c