医事紛争を防げ!演習で学ぶ 医師・看護記録
-「模擬カルテ開示」を楽しもう-

    定価 3,300円(本体 3,000円+税10%)
    嶋崎明美
    国立病院機構姫路医療センター
    B5判・148頁
    ISBN978-4-7653-1785-6
    2019年05月 刊行
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    院内コミュニケーションも訴訟対策もバッチリなカルテ記載はこれだ!

    内容紹介

    総合プロブレム方式でカルテを記載することが当たり前となった今、しかしそれでもカルテを十分に書くことができない医師・看護師は多い。そこでどのような点に気をつければ適切な記載ができるのか、具体的な記述とは何かを明らかにした。
    そしてその具体的な記述を身につけることができれば、院内のコミュニケーションだけでなく、もしも医事紛争に巻き込まれてしまったときでも記載十分となり、訴訟対策になることを判例を通してわかりやすく示しているので、カルテの書き方を学びたい若手だけでなく、医療安全業務管理者も必読である。

    序文

    診療記録をどう書いたらいいか悩んでいませんか?

    診療に関する情報には、診療録、診療記録、診療情報があります。本書では、すべての医療関係者が作成した記録である診療記録(以下、「カルテ」と表記した場合は診療記録を意味する)、特に医師記録・看護記録を充実することを目的としています。以下、両者を区別する場合はそれぞれ「医師記録」、「看護記録」と明記し、区別せずに述べる場合は「診療記録」もしくは「記録」と表記します。

    「何とかの書き方というのは苦手」と言われたことがあります。何かを型にはめて強制されるのをいやがる人は多いでしょう。しかし、様々なことには基本的なルールが存在します。ルールを守らなかったことで大変なトラブルに巻き込まれるかもしれません。その一つが医事紛争であり、医療事故の一歩手前であるインシデント発生もルール遵守と深く関係しています。インシデントの防止には業務プロセスの変更が必要であり、適切な診療記録作成がその有効な手段となります。また、行った医療行為の正当性を医療裁判で証明するためにも診療記録は重要です。医事紛争になる原因の一つは、診療記録に患者側が知りたい内容が書かれていないことによって病院側が何かを隠しているのではないかと患者側が疑ってしまう、あるいは本当に何が起こったのか知るためには医療裁判をするしか方法がないと患者側が考えてしまうことです。患者側が診療記録の改ざんを疑った場合にも同様に医事紛争が発生します。最近は、電子カルテが多く用いられていますので、コピー& ペーストであたかも記録ができているかのように装うことが可能になりました。しかし、医事紛争を防ぐためには診療記録の記載内容の適正さが求められるのであって、記載された量ではありません。本来変化すると考えられる診察所見やアセスメントなどにコピー& ペーストが繰り返されていると、「書いていないに等しい」とみなされて、記録の信頼性が損なわれる危険もあります。

    第3章で述べるように、診療記録は開示されて人に見られるものであり、患者と医療者のコミュニケーションの上でも重要なものです。結果が不確実な医療において、発生した医療事故が医事紛争に発展するかどうかには、患者・医療者関係が大きな要因となります。人は、治療過程などのプロセスと治療成果などのアウトカムを別々に評価でき、治療過程で良くしてもらったという満足感が、不満足な結果を受け入れやすくしてくれます3 )。医療事故に対する不満の軽減には、事故発生後の対応が􄼴となるだけではなく、インフォームド・コンセントを含む診療プロセスもとても大切です。診療記録は、診療プロセスを患者側が知るためにも存在します。ほんの少しのすれ違いで患者が診療プロセスに納得できないというだけでも医事紛争に発展することがあるのです。医療者が身に付けるべきリスクマネジメントのABCD のD は記録することです。

    2005年、私は初期臨床研修医(以下、研修医)のインシデントを減らす方法を求めて、九州大学で開催された医療ネットワーク学講座「医療事故・患者の苦情のための人材養成講座」に参加しました。講座の修了課題レポートで提案したのが、記載を改善して適切な診療記録にするための「模擬カルテ開示」でした。「模擬カルテ開示」は、記録監査で改善の必要があるとされた記録やインシデント事例などの記録をもとにシナリオを作成し、カルテ開示の口頭説明場面をロールプレイする体験学習です。その後、筆者が勤務する病院の研修医だけでなく、医療事故・紛争対応研究会主催の医療安全管理者人材養成講座受講者、医療事故・紛争対応研究会セミナー参加者、複数の病院での医療安全研修会の出席者らに「模擬カルテ開示」を体験してもらい、体験者から「役に立った」「楽しかった」と好評を得ました。そこで、より多くの人に「模擬カルテ開示」を知ってもらえるよう、本にして紹介することにしました。

    筆者が医療安全管理と記録について研修を担当する際に前半で行う講義の部分を、第1部「医事紛争を防ぐことができる記録とは」として、第1章から第5章に示しました。医事紛争を防ぐには、適切に記載された記録が存在し、開示でき、患者が診療プロセスを納得できることが必要です。第1章で診療記録記載の目的を、第2章で望ましい記載方法を確認します。カルテ開示については第3章で述べ、診療記録は人に見られるものであることを再確認します。この章では、どの人にも見せられる倫理的に配慮した記載方法を具体的に示します。第4章にはインフォームド・コンセントの記載のポイントを解説し、第5章で、医療裁判における記録の位置付けから医療安全管理における記録の重要性を理解できるように、いくつかの裁判例を提示しました。

    第2部「模擬カルテ開示で記録を改善する」では、体験学習「模擬カルテ開示」を紹介します。第6章に、診療記録の現状を把握して改善につなげる記録監査について目的・方法・意義などを確認します。第7章では「模擬カルテ開示」の方法を示し、「模擬カルテ開示」で用いたシナリオの記載改善例を提示して、望ましい記載の在り方を具体的に解説しました。第8章で、「模擬カルテ開示」が記録改善に有効な仕組みを考察し、第9章で、学生・研修医などを対象とした「模擬カルテ開示」以外の記載教育の取り組みを紹介しました。

    第3部は「演習と解説」としました。本来「模擬カルテ開示」は2名以上で行うものであり、多職種のグループで体験する方がはるかに楽しいのですが、本書では読者1人でもロールプレイを体験できる方法を示しましたので、演習の形で体験してみてください。

    医師・看護師ともに、SOAP など記録の書き方の基本は大学や看護学校で学びます。しかし、記録の重要性についてどこまで理解できているのでしょうか。医療現場に出ると先輩の書き方を真似て記録をし、書き方の指導を受けるのは何かトラブルが起こった後だったりします。「知っている」ことと「できる」こと、「できる」ことと「行う」ことはそれぞれ別物です。記録をどう書いたらいいか悩んでいませんか?

    本書は記載方法を解説するテキストでもありますが、さらに、どのようにして記載を改善するのか、その具体的かつ有効な方法を紹介するものです。どの章から読んでもいい構成を心がけました。関連する参考事項について「コラム」で説明し、筆者が研修を担当した時に受けた質問への回答を「Q&A」として各章に挿入しています。

    第2章と第9章にも演習を設けて、体験から気付いてもらえるようにしました。現場の医師・看護師、医療安全管理者、学生・研修医などの教育指導者はもちろん、診療記録の記載方法について学ぼうとする医療系学生の皆さんのお役に立てれば幸いです。

    目次

    第1部 医事紛争を防ぐことができる記録とは
    第1章 なぜ診療記録は必要なのでしょうか? ― 記録する目的は?
    第2章 望ましい診療記録の記載方法とは
    第3章 カルテ開示 ― 誰にでも見せられる記録ですか? 第4章 インフォームド・コンセント ― 説明状況が記録からわかりますか?
    第5章 なぜ医療安全管理に記録が重要ですか? ― 裁判例を見てみましょう
    第2部 「模擬カルテ開示」で記録を改善する
    第6章 記録を見直していますか? ― 記録監査
    第7章 「模擬カルテ開示」とは
    第8章 「模擬カルテ開示」の有効性
    第9章 記載教育における他の取り組み ― 学生・研修医などを対象として
    第3部 演習と解説 ― 実際に「模擬カルテ開示」を体験しよう
    第10章 シナリオの使い方
    第11章 さあ、やってみよう!

    執筆者一覧

    嶋崎明美 国立病院機構姫路医療センター

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