金芳堂では薬剤師のための格言・金言クリニカル・パールを募集しています

エビデンスやガイドラインも大切ですが、 あなたが恩師や先輩に言われた、薬剤師として生きていく上で支えになっている、これだという言葉を教えてください。

現在金芳堂では、北和也・平井みどり・青島周一を編者として、薬剤師のためのクリニカル・パール集を制作しております。同時に多くの薬剤師の方からオリジナルのパールを公募し、あわせて珠玉のパール集として出版したいと考えています。

詳しくは募集要項を御覧ください。

“薬剤師の薬剤師による薬剤師のための”珠玉のパール集を

  ここ数年、講演やワークショップ、書籍の共同執筆などがきっかけで、たくさんの薬剤師と出会い関わらせていただくようになりました。そんな中、魅力的な薬剤師と全国各地で知り合いました。また、ワークショップ中に「なるほど!」と膝を打つような現場で役立つ金言・格言(パール)に出会うことがしばしばありました。その金言・格言は日々奮闘する現場の中で生まれ、語り継がれてきた珠玉の実践知であったり、あるいは日々無意識下に行動の指標にしてきた暗黙知だったりするのだろうと思います。こういったものがワークショップやカンファレンスなどを通して「今日たまたま言語化された」なんてこともあり、こういった実践知・暗黙知を広く共有できる方法はないかなと考えていました。

 これまで、医師による臨床のパール集(金言・格言集)はいくつか出版され、多くの医師に影響を与えてきましたが、薬剤師によるまとまったパール集というのはあまりみかけたことがないと気付きました。そこで、ぜひとも日本全国の薬剤師の実践知・暗黙知を集結したような珠玉のパール集をつくりたいと考え、平井みどり先生、青島周一先生に相談させていただき、「パールが知りたい!」を合い言葉に、先生方にお声かけさせていただくことにしました。

 パールの内容は、現場で役立つ内容でしたら、何でも構いません。「平井先生、青島先生に挙げていただいた例とは毛色が違いすぎるか・・・」と感じられても全く問題ありません!

 本書に掲載される珠玉のパールたちが、時には業務上のセーフティネットの役割を果たし、時には困難なシチュエーションに直面した際の行動指針となり、仕事の質向上や後輩教育のヒントにつながれば、ひいては目の前の患者さんがハッピーになれば、と考えています。宜しくお願いいたします。

編者を代表して
北和也

募集要項

対象
薬剤師。病院薬剤師、薬局薬剤師などの区別はございません。
募集期間
2019年7月~2019年9月末
募集内容
薬剤師の仕事において、指針としているようなクリニカル・パールとその由来、解説
書籍
応募いただいたパールは、編者による選考のうえ、金芳堂より発売予定の書籍に掲載させていただきます。
薬剤師向け会員制ウェブサイト掲載について
書籍掲載が決まったパールのうち特に優れていると編者が判断したものを、執筆者と相談の上PharmaTribuneWebに掲載させていただくことがあります。

募集要項の詳細はレジェンドパール公募情報を御覧ください。

パールのサンプル

副腎に求めよ。関心のない所にこそ重要なものがある。

カテゴリー:情報検索

「副腎に求めよ」とは、僕の師匠、名郷直樹先生(武蔵国分寺公園クリニック院長)の言葉である。副腎というのは、もちろん臓器の副腎のことであるが、この言葉はあるエピソードに由来している。

 副腎白質脳症という代謝性疾患がある。まだその病態も解明されていない頃、名郷先生の師匠であった五十嵐正紘先生によって、その欠損酵素が発見された。

 脳症の研究は、病因の解明のために亡くなった患者組織から研究サンプルを得ようとする。当時、副腎白質脳症の原因は誰しもが脳にあると考えていた。したがって著明な研究者たちは、脳や脊髄など脳症と関連していそうな組織や臓器から研究サンプルを採取していく。日本から留学してきた五十嵐先生が研究サンプルを得ようとしたときには、副腎くらいしか残っていなかったそうだ。しかし、誰も見向きもしなかった副腎から副腎白質脳症の欠損酵素が見つかった。

 大事なのは欠損酵素を見つけたということではない。誰も関心を向けなかった副腎を調べたということだ。物の見方、感じ方、あるいは考え方を基本的なところで規定しているのは、僕らが所属している集団の関心である。それは常識的な価値観といっても良い。

 しかし、常識的な価値観を一度カッコにいれ、誰しもが関心を向けなかったところに視線を向けてみる。物事の前提を疑い、自分の目で確かめてみる。常識の名において主張されうる全てのものに対して批判的に物事を考えた先に、それまでの価値観を大きく変革してしまうような偉大な発見があるものだ。

青島周一

観察的な臨床研究データを解釈する際には、検討対象集団がどのような背景特性を有していたか想像せよ。

カテゴリー:情報活用

例えば、睡眠時間の長さが、主観的な健康へどのような影響をもたらすのかを検討するために、自記式のアンケート調査を行ったとしよう。その結果、7~8時間の標準的な睡眠時間集団と比較して、6時間未満の短時間睡眠集団、9時間以上の長時間睡眠集団で、主観的な健康状態が悪いというデータが得られたとする。では、この結果をもってして睡眠時間が短いこと、もしくは長いことが健康へ悪影響をもたらすといえるだろうか?

 観察的研究データを前にしたら、“検討されている研究対象集団は、他にどんな曝露を有している可能性があるのだろう” と考えることが肝要である。この調査結果で言えば、睡眠時間が短い集団(あるいは長い集団)は他にどんな曝露を有している可能性が高いのか、つまり、どのような背景因子をもった集団なのか、想像してみるということだ。

 睡眠時間が短くなってしまう要因として、不眠症などの精神疾患を有する人、あるいは過酷な労働環境を強いられている人などを考えることができるだろう。また睡眠時間が長くなってしまう要因としては、寝たきり状態などを容易に想像することができる。

 つまり短時間睡眠、あるいは長時間睡眠が主観的な健康状態の悪化をもたらしているというわけではなく、睡眠時間が短くなる、あるいは長くなる要因が、睡眠時間とは独立して健康状態の悪化をもたらしているという可能性が高い。

 調べようとしている曝露以外の要因で、健康状態に影響を与える因子を疫学では「交絡因子」と呼ぶ。このアンケート調査においては、調べようとしている曝露はもちろん「睡眠時間」であるが、主観的な健康状態に影響を与えている睡眠時間以外の曝露である「精神疾患」や「長時間労働」、「長期臥床状態」は交絡因子に該当する。このような交絡因子により、曝露と健康状態の関連性が過大または過小に評価されてしまう現象が「交絡」である。

 ”交絡を考える”とは、『検討されている研究対象集団は、どんな曝露(交絡因子)を有している集団なのか想像してみる』ということであり、それはまた、観察的な研究データに示された曝露と健康状態の関連が、因果関係ではなく見かけの関連に過ぎないことを見抜き、真の原因がどこにあるのかを探究するプロセスに他ならない。

青島周一

 「お薬飲めてますか?」「はい」ではなく、「お薬って、残っちゃうんですよね」「そうなんです・・・」

カテゴリー:服薬指導

残薬が問題視されますが、「これだけ残ってるから、薬代値引きして!」と持ってくる大阪のおばちゃん的な人ばかりではありません。飲めてないことに罪悪感を持つ人もいます。残薬にかかわらず、患者さんが言いづらいこと・言い出しにくいことをいかに引き出すか。目の前の人を評価する姿勢をちょっと脇に置いて、自分が患者さんになったつもりで尋ねてみるのが良さそうです。「こんな聞き方されると、責められてるような気分になるんじゃないかな・・・」と、ちょっと考えてから、言葉を発してみてください。

良かれと思って家族が飲ませた薬で副作用

カテゴリー:服薬指導

 老老介護のご夫婦二人暮らし。奥さんが寝たきりでご主人が介護をしています。今まで綺麗に介護されていた奥さんの背中に突然出現した褥瘡。どうしてだろうと訪問薬剤師が服用薬をチェックするも、心当たりになるような処方はなし。ご主人によくよく話を聞いてみると、最近奥さんが眠れないというので、自分が処方してもらっているハルシオンを飲ませてあげたとのこと。ああ、筋弛緩作用のあるお薬ね!

平井みどり