減薬・中止・継続 向精神薬の出口戦略

    定価 3,960円(本体 3,600円+税10%)
    監修稲田健
    北里大学医学部精神科学主任教授
    編集村岡寛之
    北里大学医学部精神科学講師
    A5判・215頁
    ISBN978-4-7653-2107-5
    2026年07月 刊行
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    「この薬、いつまで飲むの?」 患者さんの切実な問いに答えるための、向精神薬「見直し」実践ガイド

    内容紹介

    患者さんから「この薬、いつまで飲み続けるんですか?」「副作用が心配だからやめたいです」と問われたとき、自信を持って答えられますか?

    向精神薬は「開始」すること以上に、「どのように続けるか」「いつ減らすか」「どう止めるか」が日常診療において繰り返し問われる薬です。しかし、漫然とした継続や安易な中止は、再燃リスクや離脱症状を招く恐れがあり、患者さんの自己判断による中断も少なくありません。

    本書は、精神科を専門としない医師や薬剤師に向けて、向精神薬の「減らし方」「やめ方」「続け方」の判断基準と具体的な進め方をまとめた実践ガイドです。ただし、それらを単なる手技としてではなく、患者さんの人生や価値観に寄り添いながら治療を最適化していく営みとして捉え、各薬剤の作用機序や特徴、実践的な減薬・中止の方法はもちろん、副作用モニタリング、依存や処方カスケードへの視点、多職種連携、家族支援、共同意思決定(shared decision making)の重要性にも目を向けました。

    薬を「出す」ためだけでなく、適切に「見直す」ための知恵を共有し、患者さんと話し合いを重ね、ともに最善の治療を決めていくための「実践的な道しるべ」となる一冊です。

    序文

    監修のことば

    治療を受けている患者さんの多くが、「この治療は、いつまで続くのだろうか」という素朴な疑問を持っています。また、「通院や治療をやめることができてはじめて“治った”と実感できる」という患者さんも少なくありません。

    患者さんの多くは、「薬をやめたら病気が悪化するのではないか」という不安と、「薬を減らしたり、やめたりすれば副作用が楽になるのではないか」という期待を抱き、そのはざまで揺れながら、自らの判断で治療を調整したり、治療から離れてしまったりしているのが現実です。精神科領域における薬物療法のアドヒアランスに関する研究では、約半数の患者さんが薬を自己中断した経験を持つと報告されています。

    ところが、「治療をやめたらどうなるのか」という問いに対する答えは、意外なほど十分に議論されてきませんでした。通院をやめることで何が変わるのか。副作用や生活上の負担は本当に軽くなるのか。精神科治療の目標が症状の緩和にとどまらず、社会機能の回復にまで及ぶと考えると、この問いはいっそう複雑になってきます。

    そのような中で、精神科薬物療法は比較的エビデンスが整備された分野です。服薬を減らしたり中止したりした際の「ベネフィット」と「リスク」について、これまでに蓄積されたデータをもとに考えることができます。つまり、患者さん一人ひとりの状況に照らしながら、根拠に基づいた丁寧な対話ができる領域でもあるのです。

    では実際に、薬物療法を続けるか、減らすか、やめるか ― その判断をどのように考え、どのように進めていけばよいのでしょうか。本書は、そうした問いに真正面から向き合った一冊です。最新の研究データを土台としながら、著者たちの豊富な臨床経験を交えて、新進気鋭のエキスパートたちが丁寧にまとめてくれました。

    本書を通じて繰り返し伝えられているのは、「患者さんと話し合うこと」の大切さです。ここでいう「話し合い」とは、ただ話を聴くことではありません。医療の専門家として、これまでに明らかにされてきた知見を、目の前の患者さんにわかるように伝え、ともに考え、ともに決めていくことを意味しています。本書を手にした医療者の方々には、そのための知識と視座を得ていただけることと思います。

    本書が日々の臨床の助けとなり、患者さん一人ひとりのより良い未来に、少しでも貢献できることを願っています。

    2026年6月
    北里大学医学部精神科学
    主任教授 稲田健


    序文

    向精神薬は、精神科診療において欠かすことのできない治療手段です。抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬・睡眠薬、気分安定薬、抗認知症薬、神経発達症治療薬、依存症治療薬はいずれも、患者さんの苦痛を軽減し、生活機能を回復させ、再発を防ぐ上で大きな役割を果たしてきました。一方で、これらの薬剤は「開始すること」以上に、「どのように続けるか」「いつ減らすか」「どのようにやめるか」という問いが、日常の診療で繰り返し問われる薬でもあります。実際、本書の各章でも、減量・中止・継続の判断には、薬理学的特性だけでなく、再燃・再発リスク、副作用、離脱症状、併存疾患、年齢、妊娠・授乳、本人の希望や生活背景など、多くの要素を総合的に考える必要があることが一貫して示されています。

    向精神薬をめぐっては、しばしば「できるだけ早くやめたい」「長く飲み続けてよいのか」「副作用が心配だ」といった切実な声が聞かれます。これに対して医療者は、単に漫然と継続するのでも、逆に安易に中止を勧めるのでもなく、その時点の利益と不利益を丁寧に見極めなければなりません。たとえば、抗うつ薬では段階的な漸減と離脱症状への配慮が重要であり、気分安定薬や抗精神病薬では急な中止が再発リスクを高めうること、依存症治療薬では薬物療法のみで完結せず心理社会的支援と併せて考える必要があること、さらに妊娠・出産や高齢者医療では一般成人とは異なる視点が求められることが、本書全体の重要なメッセージとなっています。

    本書は、「減らし方」「止め方」「続け方」を単なる手技としてではなく、患者さんの人生や価値観に寄り添いながら治療を最適化していく営みとして捉えています。そのため、各薬剤の作用機序や特徴、実践的な減薬・中止の方法だけでなく、副作用モニタリング、依存や処方カスケードへの視点、多職種連携、家族支援、共同意思決定(Shared decisionmaking)の重要性にも目を向けました。

    向精神薬の処方に「唯一の正解」はありません。必要なのは、エビデンスを踏まえつつも、目の前の一人ひとりにとって何が最善かを考え続ける姿勢です。本書が、精神科を専門とする医師のみならず、精神科を専門としない医師、薬剤師、看護師、その他の医療職にとっても、日々の診療で迷いや悩みに向き合う際の実践的な道しるべとなれば幸いです。そして何より、薬を「出す」ためだけでなく、適切に「見直す」ための知恵を共有することで、より安全で納得感のある薬物療法につながることを願っています。

    2026年6月
    北里大学医学部精神科学
    講師 村岡寛之

    目次

    減薬・中止・継続の基本的な考え方
    1.はじめに

    2.減薬・中止・継続を考える基本的な視点
    2-1.治療目標の明確化
    2-2.個別化医療の重要性
    2-3.リスク・ベネフィット評価
    2-4.共同意思決定(SDM)

    3.薬剤特性と減薬戦略
    3-1.薬物動態学的特性
    3-2.受容体親和性と作用機序
    3-3.依存性・耐性の評価
    3-4.剤型による工夫

    4.減薬の適応と禁忌
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬の相対的禁忌
    4-3.絶対的禁忌

    5.段階的減薬の原則
    5-1.漸減法の基本原則
    5-2.隔日法・間欠投与法
    5-3.症状モニタリング
    5-4.減薬の中断・調整

    6.離脱症状への対策
    6-1.離脱症状の病態生理
    6-2.離脱症状の特徴と分類
    6-3.離脱症状の予防策
    6-4.離脱症状への対症療法

    7.患者・家族への説明と支援
    7-1.十分な情報提供
    7-2.心理的支援

    Ⅰ 抗精神病薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.抗精神病薬の作用機序と特徴
    2-1.定型抗精神病薬
    2-2.非定型抗精神病薬
    2-3.解説

    3.適応疾患と標的症状

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬時の注意点
    4-3.症例
    ケース1:EPSによりアセナピンを減薬したケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース2:精神症状には有効であったが、副作用のためリスペリドンを中止したケース
    ケース3:精神症状に効果がなく、副作用のため複数の抗精神病薬を中止し、変更したケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え1

    COLUMN 適応外にみる「慣れ」と「慎重さ」—精神科と他科の処方から

    Ⅱ 抗うつ薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.抗うつ薬の作用機序と特徴

    3.抗うつ薬の使い分け
    3-1.副作用による使い分け
    3-2.症状による使い分け
    - 3-2-1.診療ガイドラインでの推奨
    - 3-2-2.エキスパートコンセンサスでの推奨
    - 3-2-3.用法による使い分け
    - 3-2-4.添付文書における運転に関する記載の違い

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    - 4-1-1.再燃・再発予防の観点
    - 4-1-2.副作用のマネジメント
    - 4-1-3.併用療法の整理としての減薬
    - 4-1-4.患者さんの希望
    4-2.減薬の方法・留意点
    - 4-2-1.離脱症状
    - 4-2-2.離脱症状と再燃・再発との鑑別
    - 4-2-3.減薬速度
    - 4-2-4.症状モニタリング
    4-3.症例
    ケース1:減薬の際に再発予防プランを立てたケース
    ケース2:多剤併用を整理したケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    - 5-1-1.抗うつ薬中止によって再燃・再発リスクはどれくらい高まるか
    - 5-1-2.抗うつ薬の継続に関する国際的な診療ガイドラインの推奨
    - 5-1-3.中止を検討する要因
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース3:患者さんと主治医で情報を共有し、服薬を中止したケース
    ケース4:中止による離脱症状と再発の誤認があったケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え2

    COLUMN 不安症における抗うつ薬の減らし方、やめ方

    Ⅲ 抗不安薬・睡眠薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.睡眠薬の作用機序と特徴
    2-1.抗不安薬
    2-2.睡眠薬

    3.適応疾患と標的症状
    3-1.抗不安薬の適応と使用における注意点
    3-2.睡眠薬の適応と特徴

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    - 4-1-1.症状安定期における減薬
    - 4-1-2.副作用による減薬
    - 4-1-3.多剤併用リスクの軽減
    4-2.減薬時の注意点
    - 4-2-1.段階的減量の重要性
    - 4-2-2.離脱症候群のモニタリング
    - 4-2-3.非薬物療法の併用
    - 4-2-4.急激な中止の危険性
    4-3.症例
    ケース1:睡眠習慣の改善により睡眠薬減薬に成功したケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    - 5-1-1.抗不安薬の中止
    - 5-1-2.睡眠薬の中止
    - 5-1-3.緊急性を要する中止
    5-2.中止の方法
    - 5-2-1.中止のタイミング判断
    5-3.症例
    ケース2:パニック症におけるSSRIへの切り替えによりBZD系抗不安薬中止に成功したケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え3

    COLUMN 抗不安薬や睡眠薬と“別れられない”とき、私たちができること

    Ⅳ 気分安定薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.気分安定薬の作用機序と特徴

    3.適応疾患と標的症状

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬時の注意点
    4-3.症例
    ケース1:肥満悪化によるバルプロ酸減薬のケース
    ケース2:副作用によるリチウム減薬

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース3:挙児希望によるリチウム中止のケース
    ケース4:妊娠希望によるバルプロ酸中止のケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え4

    COLUMN 減薬・中止のピットフォール

    Ⅴ 抗認知症薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.アルツハイマー型認知症
    2-1.症状改善薬
    - 2-1-1.作用機序と特徴、適応疾患
    - 2-1-2.BPSDに対する作用(保険適用外)
    - 2-1-3.減薬のしかた
    ケース1:抗認知症薬の変更に至ったケース
    2-2.アミロイド抗体治療薬
    - 2-2-1.作用機序と特徴
    2-3.減量・中止の適応
    ケース2:ドナネマブが投与開始となるも中止になったケース

    3.レビー小体型認知症
    3-1.作用機序と特徴
    - 3-1-1.認知症症状に対する効果
    - 3-1-2.認知症症状以外に対する効果
    ケース3:ドネペジルにより症状改善を自覚したケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え5

    COLUMN 認知症の患者さん・家族への向き合い方

    Ⅵ 神経発達症治療薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.神経発達症治療薬の作用機序と特徴

    3.適応疾患と標的症状

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬の注意点
    4-3.症例
    ケース1:安定によりアトモキセチンを減薬したケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース2:グアンファシンを中止しメチルフェニデート徐放錠にスイッチしたケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え6

    COLUMN 薬物療法の継続と中止のはざまで:ライフステージに寄り添う支援

    Ⅶ 依存症治療薬の減らし方、やめ方
    1.はじめに

    2.依存症治療薬の作用機序と特徴

    3.適応疾患と標的症状

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬時の注意点
    4-3.症例
    ケース1:副作用によりセリンクロを減薬したケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース2:環境が整ったため断薬を希望されたケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え7

    COLUMN 役立ちそうなものは全部使って!

    Ⅷ 注意すべき副作用、依存
    1.はじめに

    2.副作用と治療

    3.副作用と参照する資料

    4.減薬のしかた
    4-1.減薬の適応
    4-2.減薬時の注意点
    4-3.症例
    ケース1:本人から「40代で31錠も飲むのは多いから減らしてほしい」と言われたケース
    ケース2:複数の抗コリン薬を内服し、減量したが2年後に元に戻ったケース

    5.中止のしかた
    5-1.中止の適応
    5-2.中止の方法
    5-3.症例
    ケース3:睡眠覚醒リズム表をきっかけに睡眠時無呼吸症候群(SAS)が発見され、この改善によって内服の減量が可能であったケース

    患者さんによく聞かれる質問とその答え8

    COLUMN お勤めご苦労様でした

    Ⅸ 併存疾患、高齢者、小児、妊産婦への処方
    1.はじめに

    2.併存疾患を有する患者さんへの処方
    2-1.併存疾患により薬物動態に変化が生じる
    2-2.肝機能障害
    2-3.腎機能障害
    2-4.相互作用の観点からの注意点
    - 2-4-1.抗てんかん薬
    - 2-4-2.抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬・抗結核薬
    - 2-4-3.抗潰瘍薬
    - 2-4-4.その他

    3.高齢者への処方
    3-1.加齢性変化により有害事象が生じやすい
    3-2.本当に薬物療法が必要な状態なのか
    3-3.アドヒアランスと家族支援
    3-4.高齢者において慎重な投与を要する薬剤

    COLUMN 高齢患者さんへの非告知投与に関して

    4.小児への処方
    4-1.子どもの精神疾患の特徴
    4-2.小児のうつ病
    4-3.小児の不安症
    4-4.チック
    4-5.適応外使用をする際の対応

    COLUMN 本人への診断告知はいつどうやって行う?

    5.妊産婦への処方
    5-1.妊産婦の向精神薬処方における支援
    - 5-1-1.プレコンセプションケアと共同意思決定(SDM)
    - 5-1-2.ベースラインリスクについて
    - 5-1-3.薬物療法を中断した際のリスクについて
    5-2.妊娠に伴う薬物動態の変化
    5-3.授乳に関して
    5-4.薬剤カテゴリごとのエビデンス
    - 5-4-1.抗精神病薬
    - 5-4-2.抗うつ薬
    - 5-4-3.気分安定薬
    - 5-4-4.BZD系薬

    執筆者一覧

    ■監修
    稲田健   北里大学医学部精神科学主任教授

    ■編集
    村岡寛之  北里大学医学部精神科学講師

    ■執筆者一覧(五十音順)
    越智紳一郎 愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学講師
    河野美帆  医療法人一誠会都城新生病院児童・思春期精神科部長
    古屋宏章  昭和医科大学薬学部病院薬剤学講座助教
    櫻井準   杏林大学医学部精神神経科学教室准教授
    鈴木龍太郎 北里大学医学部地域児童精神科医療学特任助教
    田形弘実  東邦大学医学部精神神経医学講座助教
    常岡俊昭  昭和医科大学烏山病院精神科准教授
    松井健太郎 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部医長/睡眠障害センター長(兼任)
    吉野祐太  愛媛大学附属病院精神科講師

    トピックス