生成AIと歩む医療の未来地図 臨床・研究・医学教育はこう変わる

    定価 3,850円(本体 3,500円+税10%)
    髙橋宏瑞
    順天堂大学医学部附属浦安病院総合診療科准教授
    A5判・212頁
    ISBN978-4-7653-2061-0
    2025年09月 刊行
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    “人間的総合力”を頼りに、“生成AI時代”をどう生きるか

    内容紹介

    ChatGPT等が登場して以降、医療現場でも、生成AIを活用する動きが活発となりました。

    ただ、ChatGPT等AIの基本的な使い方はわかったが、さらに実務に落とし込むために、どのように活用したらいいか悩む医師に向けて、医療現場で実際に使われている生成AIの活用術をまとめた書籍が誕生しました。

    日本医療AIアカデミーサロンディレクターである著者のアイデアや体験等を踏まえた実践的な内容で、「AIのおっちょこちょいな部分」、「AIに頼りすぎない工夫」「生成AIでこんなことができるんだ」といった今までの医療現場での常識を変える新しい視点・活用術を掲載しています。

    また、実務の点のみならず、AIがもたらす新たな医療の扉を開けることにより、ベテランと若手医師の新しい関係、医師と患者の新たな関係等々、読後、生成AIのリテラシーが高まり、医師として、一人の人間として「人間的総合力」をいかに育み、発揮していくか生成AI時代の生き抜き方が分かるようになります。

    序文

    2022年11月、米国OpenAIが公開したChatGPTは、医療界に鉄槌を下すかのような衝撃をもたらしました。重厚な教科書や専門誌を読み込み、膨大な臨床経験を積み重ねてようやく手に入れてきた〈正しい知識〉が、たった数行の対話で即座に引き出せる──その光景を目にした瞬間、私は「医師の専門性は果たしてどこに宿るのか」という根源的な問いに突き当たりました。

    この問いは、かつてマイケル・サンデル教授の講義『Justice(正義)』で味わった倫理的ジレンマの記憶を呼び覚まします。トロッコ問題において、進路を変え五人を救うために一人を犠牲にする選択は一定の支持を集めます。しかし、仮に病院で五人の重症患者を救うため、隣室にいる健康な一人から臓器を摘出してよいかと問われれば、ほとんどの人が首を横に振るでしょう。命の尊厳という同じ秤の上で、私たちは状況や文脈によって異なる判断を下します。そこには絶対的な「正しさ」はなく、価値観・信念・社会制度が複雑に絡み合う多種多様な正義が存在するのです。

    では、生成AIが医学的知識を瞬時に提示する時代において、医師を医師たらしめるものは何でしょうか。診断や治療方針の立案、論文検索やコード生成までAIが肩代わりできる今日、知識量という優位性は確実に希薄化しつつあります。しかし私は、ここにこそ次世代の医師像を再定義する好機があると考えます。

    本書が追いかけるのは、生成AIが臨床現場の実務をどう変えるのかという表層的な変化にとどまりません。AIが看護師やコメディカル、さらには患者自身とどのような関係性を再構築するのか。そして医師は、知識ではない“人間的総合力”──患者の不安を読み取り、価値観の衝突を調停し、最終判断の責任を引き受ける勇気──をいかに育み、発揮していくのか。答えのない問いに向き合う哲学的営為こそが、本書の中心テーマです。

    未来は誰にも測り得ません。それでも私たちは、データとロジックを丹念に積み上げ、五年後・十年後の医療の輪郭を思い描くことができます。本書では、生成AIが社会実装される速度、医療制度の変化、患者価値観の多様化を手掛かりに、可能性の一つを大胆に描き出しました。ページを閉じる頃、読者の皆さまが「これからの医師に必要な専門性とは何か」を自分自身の言葉で語れるようになっていることを願いながら──その答え合わせを共にすることを、数年後の世界で楽しみにしています。

    2025年7月25日
    髙橋宏瑞

    目次

    序章 もしも医療の現場にドラえもんがいたら?
    「もしも、医療の世界にドラえもんがやってきたら──」ちょっと“変わった”相棒、生成AI
    01 爆発的進化を遂げる生成AI──ChatGPTの登場とその後
    02 医療現場を劇的に変える5つのフェーズ
    03 “インフォデミック”時代と医療リテラシーの課題
    04 ドラえもんにもあった“おっちょこちょい”──AIだって完璧じゃない ハルシネーションへの対策と人間の責任
    05 医療従事者の役割はどう変わる?──ドラえもんに頼りすぎない工夫 依存ではなく“協働”へ
    06 本書で目指すこと──“ワクワク”と“慎重さ”を両立させる

    CHAPTER1 臨床現場での生成AIの活用
    はじめに
    01 医療現場における生成AIの可能性
    02 生成AIの診断支援への貢献
    03 生成AI導入における技術的課題
    04 倫理的課題とその克服
    05 現場導入に向けた課題と対応策
    06 現状の生成AIの限界と課題
    07 未来の展望
    おわりに

    CHAPTER2 生成AIでどう変わる? ベテランと若手医師の新しい関係
    はじめに──生成AIがもたらす「新たな医療の扉」
    01 知識源としてのAIの台頭──ベテラン医師の「生き字引」的役割はどうなる?
    02 ベテラン医師の役割の変容──「指導者」から「ディレクター」へ
    03 若手医師の学習プロセスの刷新──「一を聞いて十を知る」手段が増える
    04 コラボレーション型チームと水平化──情報共有の円滑化と「相互補完」
    05 権威の再定義
    06 リーダーシップの新たな形──「トップダウン」から「多元的リーダーシップ」へ
    07 人間の心理的課題──プライドと変化への抵抗がもたらす組織変革の壁
    おわりに──変化を超えて生まれる「より良い医療」

    CHAPTER3 生成AIが変える医師と患者の新たな関係
    はじめに──“患者中心”の視点を問い直す
    01 知識の非対称性の揺らぎと患者エンパワーメント
    02 疾患中心医療から患者中心医療への変化の加速
    03 医師と患者のコミュニケーションはどう変わるか
    04 医療従事者に求められる新たなスキルセット
    05 潜在的なリスクと課題
    おわりに──生成AI時代の医療が拓く、新たな共創のステージへ

    CHAPTER4 インターネット前・インターネット時代・生成AI時代で変わる医療従事者の能力
    はじめに
    01 インターネット前:暗黙知が支えた医療の時代
    02 インターネット時代:情報があふれ始めた医療の世界
    03 生成AI時代に新たに求められる能力
    おわりに

    CHAPTER5 研究の現場で生成AIをどう導入するか
    はじめに──生成AIで広がる「研究の可能性」
    1.初心者向け──研究の“最初の一歩”をサポートする生成AI
    2.研究者向け──現行の研究スキルを“AIで拡張”する
    おわりに──レベルに応じたAI活用で研究を加速・深化させる

    CHAPTER6 生成AIが研究領域に普及することで起きる変化
    はじめに──臨床研究と生成AIの関係
    1.生成AIが変える“研究者文化”と新たに求められる能力
    2.AI時代の「質vs量」問題
    3.研究評価システムへのインパクト
    4.AIと共存する研究の実践と未来展望
    おわりに──生成AIが拓く「研究の民主化」と人間力の新時代

    CHAPTER7 医学教育に生成AIをどう導入するか
    はじめに──医学教育における生成AIの役割
    01 医学教育全体へのインパクト
    02 学生・研修医の学習支援──基礎~初期段階での活用
    03 若手医師の実践トレーニング──臨床推論と現場教育
    04 継続教育(CME)と専門医試験対策への応用
    05 導入時の注意点とリスクマネジメント
    おわりに──生成AIが変える医学教育の未来

    CHAPTER8 生成AI時代に必要となる、“土台”としての哲学教育
    はじめに──“答えのない決断”という恐怖と可能性
    01 夢のあるシナリオと複雑化する現実
    02 ルールなき時代に迫られる“自分で考え抜く力”
    03 医療AIの現場に現れる多層的な課題
    04 患者・家族とのコミュニケーションの変容
    05 データの偏りと格差拡大のリスク
    06 なぜ“哲学”が土台になるのか
    07 医師が感じるジレンマと哲学的アプローチ
    おわりに──「医師である」意味を問い直す最後の問い

    終章 医師として、一人の人間として──生成AI時代をどう生きるか
    01 序章との対話──ドラえもん的未来はもはや夢物語ではない
    02 本書を貫く5つのキーワード
    03 ドラえもんの道具から学ぶ──使うか、使われるかの分岐点
    04 知識の民主化がもたらす専門性の再定義
    05 「人類は何を求めるのか」を問う──命の延長だけではない医療の本質
    06 過去の努力を“サンクコスト”にしない──捨てる勇気と新たな学び
    07 チーム医療と“ヒューマン・イン・ザ・ループ”が切り開く未来
    08 ワクワクと慎重さの両立が導く“ドラえもん的未来”
    おわりに──ドラえもんの“扉”を開くのは、私たち自身

    索引
    著者プロフィール

    執筆者一覧

    ■著
    髙橋宏瑞 順天堂大学医学部附属浦安病院総合診療科准教授

    トピックス

    ■2025-09-29 書評

    待ち望んでいた医学・医療の現場に役立つHow Toではなく、AI使用の哲学・概念について述べた入門書である。
    書評者 杉本俊郎(滋賀医科大学総合内科学講座)

    還暦を過ぎた小生も、日々の臨床・研究のお供に、AIを下僕として使用し始めている。幸いなことに、現在の職責にて偉そうになったので、「業務連絡の文章等を作る必要がない、そして、全く友達がいない」ので、AIに、倫理学(倫理学とは、人の行為の理由を知る学問という定義に基づいている)的な質問をして、臨床倫理委員会長として、臨床の現場のコンフリクトの解決に有用ではないかという思考実験を日々行っている。

    AI倫理検討の一例
    2025年9月15日 某朝ドラをみながら、「アンパンマンの倫理とは?」と、質問してみた。

    AIは直ちに、アンパンマンの頭をさしだす自己犠牲を、有徳の行為として、「徳倫理学」から説明する。さらに、正義の味方として飢餓に対応するのは普遍的な行為として、カントの「義務的倫理観」から説明する。ここまでは、想定範囲であるが、バイキンマンは毎週アンパンチで飛ばされていくだけで、アンパンマンと共存しているのは、理性の暴走・啓蒙の悪の部分をさし、全体主義の予防の象徴であると3つの倫理観を提示し、最終的に、作者のやなせたかし氏が、アンパンマンにこめたのは、「ひっくり返らない正義」を示すことである結論づけている。(Google Geminiのレポートを改変してまとめた)。

    このように、AIの使用は、髙橋先生が本書に著されたように、「臨床・研究・医学教育はこう変わる。」はずである。AIを下僕として使用するためには、スマホの使い方みたいなHow To本ではなく、AI使用の概念を解説した書籍が必要なことは言うまでもない。髙橋先生は、AIの概念を解説する筆者として最適の医師であると本書を読んで思った。

    「役に立つ本はすぐに役に立たなくなる」という医学書の原則がある。本書は、「役に立つし、いつまでも有用」という類まれなる書籍である。AIの使用で悩んでおられる医師の皆様に是非一読を薦める。