診察室の陰性感情

    定価 3,300円(本体 3,000円+税10%)
    加藤温
    国立国際医療研究センター病院精神科/メンタルヘルスセンター長
    A5判変型・192頁
    ISBN978-4-7653-1869-3
    2021年05月 刊行
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    医療現場における陰性感情の成り立ちから対処法まで解説。

    内容紹介

    医師が患者に対して陰性感情を覚える瞬間はあらゆる場面に存在し、陰性感情が生じることにより、その場は硬直し、診療へ悪影響を及ぼしてしまいます。

    本書では医療現場、特に外来診療で発生する陰性感情の成り立ちから対処法、そもそも陰性感情を生じさせないためのテクニックについて解説しています。

    1章から5章までは総論として、感情の成り立ちから精神科医特有のスタンス、話の聞き方等を解説し、6章では各論として個別症例毎に生じやすい陰性感情について解説します。また応用編として7章では対患者ではなくチーム医療で生じる陰性感情への対象方を解説します。

    外来診療や医療現場で陰性感情が生じることが多いと感じている方、またこれから外来診療へ携わる方は是非、本書を手に取ってみてください。きっと自身の診療スタイルを見直すきっかけになると思います。

    序文

    本書はタイトルにある通り、医療現場における陰性感情をテーマとしています。陰性感情とはマイナス方向の感情、わかりやすくいうとほぼ嫌悪感に相当します。患者診療の際に、何となく「いやだな」「難しそう」「関わりたくない」という思いを抱くことがあると思います。このように患者に対して感情面でのちょっとした引っ掛かりを感じたときに、それをどのように考え、対処していくのがよいかについて考えてみました。医師が患者に対して陰性感情を覚えると、その場は硬直化し、診療の流れにも滞りが生じてしまいます。我々は医師として患者に接していますが、当然のことながらひとりの人間としてもさまざまな感情を抱きながら生活しています。診療中に患者に対して陰性感情を抱くことは「ある」と考えるのが自然です。むしろ陰性感情を感じないように無理に抑え込もうとする方が不自然です。大事なのは、そうした感情に巻き込まれることなく自分の姿を俯瞰すること、つまり自身が抱いている感情に自覚的であることです。

    近年では怒りの感情への対応法として、アンガーマネジメントが注目され、多くの成書も発行されています。本書では精神科医の視点から、怒りだけではなく医療現場において生じるさまざまな陰性感情を扱い、その成り立ちとともに対応法の基本について述べています。

    第1章で一般的な感情について概説することから始め、第2章では医療現場において問題となる陰性感情について扱いました。第3章と第4章では陰性感情の理解や対応につながる精神科医のスタンスと話の聴き方についてまとめています。第5章では陰性感情について精神医学的に考察し、第6章では各論として陰性感情をきたしうるさまざまな場面について述べています。最後の第7章では応用編としてチーム医療について言及しました。全体を通して陰性感情という切り口からアプローチしていますが、広く患者診察の基本について述べたかたちになっています。

    今回の執筆に当たり、改めて関連の書籍や文献を読み直しました。その過程で新たな発見があったり、筆者が普段から考えていたり自分独自の診療スタイルと思っていたことが、すでに言語化されていることに気づかされることもありました。昔学んだことが知らず知らずのうちにしみ込み、自身のなかでオリジナルだと思い込んでいた部分もあったのだと思います。患者診療のかたちには原則論となる基本型があります。それを土台として、先輩や同僚、患者との関わり、個人としての生活経験などが相まって診療スタイルができてくると考えれば、どの医師の診療もオリジナルという言い方ができるかもしれません。しかし自分流のスタイルができたと感じたときこそ改めて基本に立ち返り、自身の診療のかたちを俯瞰することは、独りよがりになることに歯止めをかけ、日常診療を見直すことにつながります。患者診療については筆者も含め、皆がみな理想的対応ができるわけではありません。ただ困難な状況に直面したときに、対応法の基本を理解しておくと、全く知らないよりは余裕を持ちながら診療できると思います。

    本書を通して初学者は診療の基本型を学び、経験を積んだ医師にとっては自身の診療スタイルを振り返るきっかけとなるならば、筆者としては大変うれしく思います。

    目次

    はじめに

    第1章 感情について
    1.感情とは
    2.感情の成り立ち
    3.感情の特性

    第2章 医療現場における陰性感情
    1.診察場面で起きていること ―陰性感情の発生―
    2.陰性感情があると何が問題なのか
    3.いわゆる「難しい患者」とは

    第3章 精神科医のスタンスと診療
    1.精神科医と一般科医の違い
    2.精神科医の患者の診かた

    第4章 話の聴き方の基本
    1.傾聴・受容・共感とは
    2.話を聴く際のポイント

    第5章 陰性感情をどうしたらよいのか
    1.精神分析と転移
    2.逆転移と陰性感情
    3.陰性感情が生じる3パターン
    4.陰性感情にいかに対応するか

    第6章 各論
    1.幻覚・妄想
    2.うつ病
    3.身体症状へのこだわり
    4.パニック障害
    5.アルコール関連問題
    6.発達障害
    7.パーソナリティ障害
    8.自殺念慮のある患者
    9.怒っている患者
    10.話が長い患者
    11.いろいろと「詳しい」患者

    第7章 チーム医療における陰性感情
    1.「信念対立」という考え方
    2.オープンダイアローグからみるチーム医療
    3.多元主義の有用性

    column 1 処方行為について考える
    column 2 ユマニチュードと陰性感情
    column 3 「それはわかっています」に注意
    column 4 外来中の電話
    column 5 対話の入り口としての「顔」
    column 6 外来診察時の付き添い者
    column 7 ドクターショッピング
    column 8 沈黙
    column 9 マスクについて考える
    column 10 変換症(転換性障害)と区別すべき作為症(虚偽性障害)と詐病
    column 11 他院からの紹介患者

    あとがき
    索引

    執筆者一覧

    ■著
    加藤温 国立国際医療研究センター病院精神科/メンタルヘルスセンター長

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