生物と生命倫理の基本ノート
-「いのち」への問いかけ- 第3版

    定価 2,420円(本体 2,200円+税10%)
    西沢いづみ
    B5判・146頁
    ISBN978-4-7653-1749-8
    2018年03月 刊行
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    内容紹介

    「人間とは何か」、「いのちとは何か」人間が有史以来問い続けてきた意味を考え追求する、生物と生命倫理の入門書である。前半では、生物に関する基本的な基礎知識を中心に、生物がもつ機能やシステムを分子レベルで解説した。後半ではさまざまな生命倫理の課題をとりあげ、医療技術の目的や倫理問題を考察しながら「科学や技術」と「いのち」との関わりについて述べた。また全章にわたって質問形式を採用、さらにDiscussionの頁を設け、討論課題を中心とした内容となっている。著者からの問いかけや討論課題を元に実際に議論を交わすことで、自分の考えを明確に自覚し、同時に他の人の考え方を知り、尊重し、耳を傾けるという姿勢を学ぶことができるようにした。この1冊で生物学の基礎を習得し、現代医療に視点をおいて生命倫理と医療倫理の諸問題を深く考え多くを学べるテキストである。

    序文

    初版刊行以来10年が経ちました。その間に、先端医療技術は飛躍的に進歩し、技術にあわせて社会の規範や価値観も劇的に変化しています。しかし、最も変化してきたのは、私たちの「いのち」に対する問題意識の持ち方ではないでしょうか。不可能を可能にする技術が目の前に横たわり、多くの人が当然のように利用するようになると、社会の「あたりまえ」の範囲が拡大し、「なぜ」と疑問を持つことがなくなります。

    「障害」がある受精卵を破棄する行為が、技術の手順のなかに組み込まれていると、親は育てるか否かを迷うことはなくなります。遺伝子レベルで将来の生き方が判断されると、異なる人生を考えることは「無駄」になります。生きる前に余分な遺伝子を除き、生きている間に変異があれば発症する前に取り除くという遺伝子操作は、病気や「障害」のない生き方を「無駄」のない効率の良い生き方と捉えてしまいます。このような考え方は、終末期におけるいのちの終わり方にも影響します。病気や「障害」がある生き方を許してこなかったからです。延命治療は「無駄」といわれ、社会に貢献できない自分を惨めな存在と思うと、「それでも生きたい」という選択肢はなくなります。治療を早めに拒否することで、尊厳ある死へと導かれることに疑問を持たなくなります。

    技術や医療の進歩のスピードが速すぎて、人間の生と死をめぐる問題は、かつてないほど複雑になっています。一方で、自己決定を強調しながらも、結局1つの答えのみを選択せざるを得ない社会を私たち自身がつくっています。いのちと技術の関わりのなかの、どこに問題が隠れているのか、何が許せて何を許してはいけないのかを、私たちが見逃しているからかもしれません。

    今まで目に見えなかったいのちを単なる物質として捉えると、簡単にいのちを切り捨てたり、差別を助長したりすることにつながってしまいます。常に問われるのは「人間とは何か」、「いのちとは何か」という根本的な問題です。あらゆる技術や社会の流れに対して問いかけるべきテーマです。いのちの問いに普遍的な答えはありません。答えがないからこそ、問い続けなくてはなりません。そのなかで少しでも納得いく方向を見出すことが生命倫理の真髄だと思います。

    今回3回目の改訂をするにあたって、生命科学と医療の分野で起こっている問題が、どのように生じてきたのかを問い直すためにも、各章の内容に歴史的社会的な背景を加筆しました。6章では、生命倫理学で問われる倫理観や言葉が生み出された経緯を付け加えました。8章・9章では、技術がどのように応用されてきたのかを見直してみました。10章では、10年間の「こうのとりのゆりかご」の活動をふりかえり、親や子どもたちが直面している問題を取り上げました。13章・14章では、あらためて人の死とは何かについて整理しました。

    本書は、1~4章までは生物学に関する基礎的な知識を中心に、生きものがもつ機能やシステムを分子レベルで解説しています。すべての生きものは、奇跡に近い偶然の重なりと長い歴史の産物であり、ヒトも生きものの一員であることを知るために欠かせない基礎知識について述べました。またそれは、医療技術の進歩に伴う諸問題を考えるうえでも重要なところです。そして、5章からは様々な生命倫理の課題をとりあげています。医療技術の目的や応用を倫理的に考察し、「科学や技術」と「いのち」の関わりを考えていきます。技術を生み出すのも、それを利用するのも人間です。つまり科学や技術の問題は、私たちの生き方の問いでもあるのです。

    本書は、大学や専門学校の半期の講義に対応できるように14章構成としました。全章を通してDiscussionを取り入れています。グループやクラスで議論し、自分の思いや考え方を語り、同時に他の人の意見を尊重し耳を傾けることが大切です。本書を通じ、いのちのもつ不思議さに畏敬の念を感じながら、科学や技術や医療に向き合っていくヒントにしていただけたら幸いです。

    最後になりましたが、出版に際しご指導いただいた東洋英和女学院大学教授の大林雅之先生、新たな社会の動向に合わせて改訂にご尽力をいただいた金芳堂編集部の一堂芳恵様、そして一緒に勉強してきた多くの医療専門職の学生さんに心からお礼申し上げます。

    2018年2月
    西沢いづみ

    目次

    1 章 あなたにとって「いのち」とは
    2 章 ヒトも生きものの一員である
    3 章 生命をつくりだす場「細胞」と情報源「DNA」
    4 章 遺伝子を探る、知る、操作する―遺伝性疾患
    5 章 遺伝子を探る、知る、操作する―ヒトゲノム解析と遺伝子操作
    6 章 いのちを守るための原則と生命倫理の課題
    7 章 医療資源の配分─誰が生き、誰が死ぬのか─
    8 章 生殖補助技術─子は授かるものから、つくるものへ─
    9 章 胎児を探る、受精卵を探る─子はつくるものから、つくられるものへ─
    10 章 「こうのとりのゆりかご」と養子縁組
    11 章 受精卵や胎児はいつから「ひと」になるのでしょうか
    12 章 人の死とは
    13 章 人の死─脳死と臓器移植─
    14 章 人の死─安楽死と尊厳死─

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